コラム

企業が取り組む地域貢献活動の事例を紹介

今回は、企業が展開する地域貢献につながっている取り組みに着目します。企業ブランドのイメージや製品等を強く活かして、地域への集客効果につながっている事例、文化芸術を活かした文化観光により、地域の活性化に寄与している事例などを取り上げます。地域に開いた取り組みは、地域と、そして企業に対して何をもたらすのでしょうか?


※このレポートは2022年10月に執筆されたものです。
※レポート内のリンクは執筆時に確認した外部Webサイトのリンク、画像はイメージ画像になります。

複合型企業ミュージアムと
写真フェスティバルによる地域への集客効果

企業ミュージアム、ホテル、写真フェスティバルで地域の活性化に寄与

イヴ・ロシェ・フランスは、モン・サン・ミシェル 観光の起点となる街として知られるレンヌに本社を置く1959年創業のボタニカル・ビューティブランド。世界各地に約3,100店舗を展開しています。

創業の地ラ・ガシイに、2009年、エコホテル・スパ、そして2017年にミュージアムを含む見学施設メゾン・イヴ・ロシェをオープン。それらに先立つ2004年、ラ・ガシイの地域全体で展開される写真フェスティバルに、イヴ・ロシェ財団とともにメインパトロンとして参画しています。フェスティバルは2022年で19回目を迎えます。

この写真フェスティバルの特徴は、展示会場が屋外であるということ。ボタニカル・ビューティの大企業の本拠地にふさわしく、花と緑にあふれた自然の中を散策しながら、様々な写真に出会うことができます。写真好きのための展覧会ではなく、ラ・ガシイの自然や人々との出会いを楽しみながら満喫できる、文字通り写真フェスなのです。

大人気のアートイベントとして定着しているこのフェスティバルは、「地方の活力づくりと再生に寄与すること」を目的として始まっており、65万~70万ユーロの運営費のうち、約45%をイヴ・ロシェ財団がメセナとして出資しています。イベント時には、イヴ・ロシェの建物の外壁を展示場所として提供するほか、町内にある研究用の植物園を一般公開し、ガイドツアーやワークショップ、関連イベントをアクティビティとして提供しています。

 

文化を核にアーティスト、職人を引き付け、経済波及効果へ

写真フェスティバルの創設者は、現町長のジャック・ロシェ。イヴ・ロシェ創設者の息子であり、上述の財団の創設者でもあります。このイベントを通して、数多くのアーティストや職人・手工業者、観光客を町に引き付けることに尽力しています。

町の人口は3,000人程度ですが、写真フェスティバルには4か月の開催期間中、毎年約30万人以上が訪れます。直近の来場者数は約324,000人(2021年)。地域の商店主、職人、手工業者らを巻き込んだ一大イベントであり、開催期間中に年間売上高の約60%を実現する事業者もいるといいます。

 

地域経済の後押しと企業ブランドのイメージ向上

冒頭で紹介したメゾン・イヴ・ロシェは、昔の水車小屋を改装した見学施設で、ミュージアム「ミュゼ・イメルシフ」、レストラン「ベジタリウム」、ブティック&美容クリニックで構成されます。ミュージアムは、同社のブランド世界の展開を映像と芝居、光と音の交じり合うスペクタクルな旅路という形で描き出す、体感型の企業ミュージアムです。自然への愛、女性へのリスペクトが前面に押し出された文化観光施設となっています。

これらの自社施設を活用しつつ、持続可能な観光、100%の自然体験を掲げる同社は、研究用植物園や地元の劇場、動物園、植物園、カヌー体験、町内見学などを組み合わせた一日滞在プランも提供しています。2022年夏には、地域経済を後押しするエコなサードプレイス「ベルジュリー・イヴ・ロシェ」をオープンしています。

風光明媚な田園地域であるラ・ガシイの活性化への貢献は、毎年の話題性を考えると、ボタニカル・ビューティを担う企業ブランドのイメージ向上、大きな広報効果につながっているのではないでしょうか。

廃線トンネルを活用したワイン洞窟。
現代アートも取り入れ、地域の代表的な観光資源に

洞窟を使った複合型カルチャー・グルメ・エンタメ施設

光陽ワイン洞窟は、韓国・全羅南道の光陽市にある複合文化観光施設。光陽製鉄線の改良化事業により廃線になった路線のトンネルを再開発し、ワインと芸術が織り成す新しい複合文化芸術スペースとして、2022年1月にリニューアルオープンしました。

世界各国のワインを味わえるように、ワインを一所に集め展示、販売も行っています。また、ワインを気軽に楽しめるレストランや、ワインまたはラベンダーを活用した足湯によるウェルネスケアサービスも準備されています。

ほか、ワインの起源と歴史を約100mの長さの壁面を使って表現、その壁面のシルエットに沿って繰り広げられるメディアファザード映像ショー、人の動きに反応するインタラクティブメディア、幻想的な光とトンネル各所に隠されたトリックアートのフォトゾーンなどがあり、カルチャーとエンターテイメント、ワインを堪能できる文化観光スポットとなっています。市内の光陽エコパークと合わせた数値ではありますが、約20万人が訪れているといいます。

 

高い芸術性の追求でリピーター確保を狙う

光陽ワイン洞窟は、文化的な要素により存在感と発信力を高めるため、新しいコンテンツの導入を積極的に展開しています。特に芸術性が高いコンテンツに注目し、一過性の観光地ではなく、リピーターの創出とより感度の高いターゲットの拡大をめざしています。

例えば、地域芸術祭・全南国際水墨ビエンナーレに出品した、メディアアーティスト・パク・サンファの「思惟の庭園」「光のファンタジア」をワイン洞窟で公開することで、地域の芸術際と協働しています。韓国メディアアートを代表するパク・サンファの作品の展示は、現代アートの会場としてのイメージ創出につながっているようです。

 

自治体との連携で、地域への集客コンテンツとして存在感を発揮

光陽ワイン洞窟は光陽市の重要な観光資源となっています。市のキム・ソンス観光課長は、「光陽ワイン洞窟は、トレンドを敏感に察知し新しい試みを続けます。近隣の全南道立美術館、光陽芸術倉庫などと連携しながら、観光客の旅先での楽しみを倍増させたい」と述べています。市の一押しの観光コースにも位置づけられ、PRが積極的に行われています。今後もさらなる集客効果が期待されています。

地域に残る廃線トンネルを活用した文化観光施設。単なる観光施設にとどまらない、芸術性の追求、自治体との連携で、施設と地域の集客力強化につなげているようです。

企業ミュージアムと工場見学で
年間100万人の集客効果をもたらす

香水の都グラースを代表する香水ブランドを支える産業・文化観光

フラゴナール・パフュムールは、フランスのプロバンス地方にある香水の都として知られるグラースに本拠を置く1926年創業の香水ブランド。グラース市街中心部に「歴史工場」、グラース郊外に「花工場」、コートダジュールに「エズ工場・研究所」を展開、それら3か所で見学を受け入れています。いずれも見学無料です。

工場見学は、第一次世界大戦後、創業者のウジェーヌ・フックスが得意客に提供したことに始まりを持ち、その後も工場見学付きの直接販売が観光客に好評を博したことから継続的に展開されるようになったそうです。現在の主な目的は、体験の提供と直販体制の確保だといいます。

1975年、創業者の孫で芸術愛好家のジャン=フランソワ・コスタが着手した企業の現代化の取り組みの一環として、香水製造業の歴史と関連するコレクションを紹介する場として、歴史工場内にフラゴナール香水博物館・グラースが開設されました。ほか、同館を含め、パリとグラースに合わせて4件の企業ミュージアムを有しています。1990年代を転換期として売上の大きな部分が産業・文化観光によるものとなったことなどを受け、ブティック併設型の工場見学を重視しています。

 

フラゴナールを支える「人」づくり

家族経営のため外部の人間に任せるという発想はなく、社内でチームを結成している点は注目に値するのではないでしょうか。ガイド担当者も複数人雇用しますが、化粧品産業に関する知識は求めず、語学力、人付き合いのセンス、真剣さの3点だけをチェックするようです。

従業員と触れ合いフラゴナールの文化を理解してもらうため、工場内で長期的な研修を行い、見学ツアー時には随所で従業員に話しかけるなど、クオリティの維持にも努めています。

 

年間約80万人が訪れる大人気工場見学

年間来館者数は約100万人(ミュージアムと工場の合計と想定される)。フラゴナールの工場見学提供施設のうち、エズ工場・研究所はコートダジュールで2番目に人気のある観光スポットとなっています。2019年の来場者数は推計80万人で地域において大きな存在感があります。ちなみに、1位はヨーロッパ最大級の海洋動物園といわれるアンティーブのマリンランドで年間約85万人、3位は国立のモナコ海洋博物館で約65万6千人であることを考えると、地域への貢献度の大きさを実感できるのではないでしょうか。

産業・文化観光は、磨き上げることで、売り上げの大部分を占めるところまで成長させることができるということ、またそれが地域への波及効果につながることを実感できる事例ではないでしょうか。

まとめ

今回は企業が取り組む地域貢献活動として、地域に開かれた多様な活動を展開する事例を取り上げました。特にイヴ・ロシェやフラゴナールは、本業から派生させた取り組み、写真フェスティバルや工場見学を数十年レベルで地域に根差すものとして展開することで、地域への集客力向上、経済波及効果につなげています。また、自治体との連携により、相乗効果を狙っていると思われる韓国のワイン洞窟なども、今後の可能性を感じさせる事例ではないでしょうか。

地域への貢献の取り組みというのは、単に企業が地域に対して有益な働きかけを行うということではなく、良好な関係性を、時間をかけて丁寧につくりあげていくことではないでしょうか。それは地域にとってのポジティブな効果をもたらす一方で、企業にとっても揺るがない好感度や存在感の拡大につながるものであると思います。今回紹介した事例は、企業ミュージアムや工場といった場を活かしながら地域の集客力創出につなげています。最近、増えつつある企業ミュージアム。いかにそこに人を呼ぶかだけでなく、そこからいかに地域に広がっていくか、という発想は、思っている以上に大きな効果につながっていくように思われます。

レポート執筆者
丹青研究所

レポートを執筆した丹青研究所は、日本唯一の文化空間の専門シンクタンクです。
文化財の保存・活用に関わるコンサルや設計のリーディングカンパニーであるとともに、近年は文化観光について国内外の情報収集、研究を推進しています。
多様な視点から社会交流空間を読み解き、より多くの人々に愛され、求められる空間づくりのサポートをさせていただいております。

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