コラム

ブランド発信拠点としての企業ミュージアムをご紹介


企業ミュージアムは、さまざまな目的でつくられますが、企業らしさを発信し、自社を好きになってもらうことは重要な目的の一つといえるでしょう。ここでは、顧客やステークホルダーに発信したい企業イメージを全面にアピールし、自らの独自性の表現を通して、企業のブランドイメージを発信している企業ミュージアムを紹介します。


※このレポートは2023年11月に執筆されたものです。
※レポート内のリンクは執筆時に確認した外部Webサイトのリンク、画像はイメージ画像になります。


シャンパンで有名な老舗メゾンによる、企業のあり方を体現する施設

ワイン製造の老舗メゾンの周年事業の一環としての施設計画

1729年に設立された、世界で最古のシャンパン・メゾン(メゾンとは主にシャンパーニュ地方のワイン生産者を示す)とされるルイナールが、創業の地であるシャンパーニュ地方ランスのビュット・サン・ニケーズ公園内にワイン・ツーリズムを促進するための観光施設を計画中で、2024年のオープンを予定しています。同社のワイン・セラーのほど近くという立地です。

同メゾンは、中世の石切場であった、深さ地下40mの巨大な洞窟をワイン・セラーとしてシャンパン熟成に活用しています。シャンパーニュ地方の文化的景観として、複数のエリアが一体的に「シャンパーニュの丘陵、メゾンとカーヴ」として2015年にユネスコの世界遺産に登録されており、同メゾンもその構成資産の一つとなっています。

新施設、ニコラ・ルイナール・パビリオンは、創設者であるニコラ・ルイナールの名前を冠しています。同メゾンは2029年に創業300周年を控えており、周年事業の一環として本施設を計画しているとのことです。

 

歴史あるメゾンの世界を広く一般に公開し、観光振興にも貢献

同施設は、延床面積約1,400㎡、一般公開スペースが約700㎡となるとのこと。シャンパンの試飲スペース、ラウンジ、バー、ブティック、テラス等で構成される予定です。屋外は約5,000㎡の保護林に隣接しており、森林や同社のブドウ畑、野菜畑等を自由に散策できる場となるとのことです。これまで、同メゾンへのアクセスは上記の洞窟のワイン・セラー訪問への数少ない事前予約者に限定されていましたが、同施設のオープンにより、広く一般へ訴求し、とくにワイン・ツーリズムの振興を強化するとしています。300周年となる2029年には年間来場者数50,000人を目標としています。

 

メゾンの地球環境、そしてアートへのコミットメントを表現

プレスリリースには、同施設は歴史、現代性、自然、芸術、専門知識や技能が一体となったルイナールの世界のさまざまな側面を体現するものとなると記載されています。シャンパン・メゾンでありつつ、地球環境やアートに深くかかわっているという同メゾンのユニークさを前面に押し出す施設となっています。

同施設の建築は日本人建築家、藤本壮介氏が設計。ボトルの形とシャンパンの泡の丸みからインスピレーションを得たデザインであるといいます。石灰石の石切場であった土地の歴史を活かし、天然石灰石の活用をはじめとした自然素材の使用、再生可能エネルギーの活用等、同社の環境へのコミットメントを尊重した設計であるそうです。

また、同メゾンは、古くから広告や芸術に関する賞や展示においてアートの世界と深い関係を築いてきました。2008年からは毎年現代アーティストを招待し、同メゾンにインスパイアされた作品制作を依頼するカルテ・ブランシュというプログラムを行っています。これらの活動の延長として、同施設においてもアートの要素は重視されており、敷地内にはアートがちりばめられ、歴史的に同社が芸術界を支援してきたことを提示するとのことです。

同メゾンの文化芸術に対する価値観や環境保護への視点等、同社のコミットメントを体現する施設となっています。訪れる人々に対し、ルイナールのブランドを印象づけるとともに、ひいては世界遺産として登録された地区全体の観光振興に貢献するものになると思われます。

「未来のモビリティ企業」であることをアピールするための施設

韓国の自動車メーカー、ヒョンデが国内外に持つ施設

ヒョンデ・モータースタジオは、韓国の自動車メーカー、ヒョンデ(現代自動車)の持つ、ブランド発信拠点。同社は、「車はただのツールではなく人の心を動かす人生の仲間」との考えから、車との新しい体験、車のある未来の生活を特別な体験を提供する場として同施設を展開しています。同社が「未来のモビリティ企業」であることをプレゼンテーションする場となっています。

2014年にソウルにオープンし、韓国国内ではハナム市、コヤン市、そして2023年には釜山にオープンしました。国外にも展開し、モスクワ(ロシア)、北京(中国)、スナヤンパーク(インドネシア)にも設置しています。そのほか、バーチャル空間のゼペット(韓国で人気のメタバース空間)上にも設けられていることが特徴的です。

 

「ブランド・ショールーム」としての展開

2014年にソウルのモータースタジオがオープンした際の同社のプレスリリースによると、このモータースタジオを「フラッグシップ・ブランド・ショールーム」ととらえ、設置目的は顧客とのコミュニケーションを通じた同社のブランド・マネジメント強化であるようです。顧客にブランドの価値を体験してもらうための施設として、ブランド・コミュニケーションのための展示、文化体験、ショッピングの場としてつくられました。

 

大胆な展示や大型映像を活用したダイナミックな見せ方

ソウルにあるモータースタジオのファサードには、「カー・ローテーターズ」と称されたディスプレイが設置されています。同社の高級車ブランドであるジェネシスが9台、建物の2階から4階の窓側に3台ずつ設置され、毎月その設置角度が変わり、訪れる人や近くを通る人が全ての角度からジェネシスを観察できるというダイナミックで建物を印象づけるものとなっています。

このほか、各地の施設でそれぞれ構成要素が異なりますが、製品の展示をはじめ、最新の製造ロボットの展示、同社の車の安全性を紹介するシアター、体験展示、車をテーマとしたアート・インスタレーション等が展開されています。

最も新しい釜山のモータースタジオでは、現代アーティストと連携した同社のビジョンや哲学にインスパイアされた映像アート作品を大型ビジョンで展示、北京のモータースタジオでは、ロボットやブロックチェーン、生態系等をテーマとした企画展を行う等、車を見せるだけでない、同社の考える未来を多様な方法で提示するミュージアムのような様相も見せています。

 

ワークショップ、試乗、レストラン、ショップ・・・全方位的な体験

上記のように、展示だけでも多くの視点で展開されるとともに、施設によってはライド・アトラクションも用意されています。このほか、子どもから大人までが参加できるデザインやものづくりのワークショップ、同社の車両の試乗体験、講演やクラス等のプログラムも豊富に用意され、盛りだくさんな内容です。

さらに、施設内にはレストランやラウンジ、カフェが設置され、訪れる人がくつろげる場所を提供。加えて、同社の電気自動車ブランドであるアイオニックと、リサイクル素材を使ったアパレルブランドがコラボレーションしたリサイクル素材のバッグ等、スタイリッシュなデザイン関連製品を販売するショップも設けており、展示や体験も含め、訪れる人々に全方位的な体験を提供しているといえるでしょう。

アート作品の展示や社会課題をテーマとした企画展示等、製品の紹介や販売に直結するわけではないけれども、同社のビジョンを提示するコンテンツを提供しています。各コンテンツの提示の仕方がそれぞれダイナミックであり、インタラクティブなものが多いことが特徴的です。未来感やスタイリッシュさがあふれ、同社のブランドイメージが伝わる施設となっています。

地元に根付いた製品づくりをアピールする工場見学施設

化粧品メーカー、ロクシタンの持つ工場見学施設

ロクシタン・アン・プロヴァンス・マノスクは、化粧品メーカーのロクシタンが創業の地、南フランスのプロヴァンス、マノスクに持つ工場見学施設です。

1976年に創業した同社は、現在では世界中で展開され多くの人が知るコスメティック・ブランドとなっていますが、もともとは古い蒸留器でつくったローズマリーのエッセンシャルオイルをプロヴァンスのマルシェで販売したのが始まり。プロヴァンスの自然からインスピレーションを得て人々をケアする化粧品をつくり続けてきたと自負しており、プロヴァンス産アーモンド、ブルキナファソ産シアバターといった天然材料を利用した製品を開発しています。

 

「南仏プロヴァンス」に根付く製品、そしてブランドをアピール

予約制で見学できる1時間の工場のガイドツアーは一人6ユーロで提供されており、ラボや製造工程等を見学し、製品サンプルを試す、香りを感じる等を通して製品のユニークさや効果を紹介しています。ガイドツアーには展示見学も含まれており、同社の歴史、原材料となる植物についての紹介も行っています。

屋外には、「地中海ガーデン」を設け、同社の製品に使われている南フランス特有の香草や薬草を植えた庭園をつくり、来場者が見学できるようになっています。ラベンダー畑をはじめ、同社のブランドイメージを体現するような独特な景観をつくりだしています。

さらに、併設するショップは2019年にリニューアルし、ブティック・ミュゼと名付けられています。ショップ内では歴代の製品展示も展開。来場者は10%オフで商品を購入することが可能です。

公式ウェブサイトには、自社を「南仏プロヴァンスの生活を提案するコスメティック・ブランド」と紹介しており、ロゴマークにも記されているプロヴァンスが同社のブランドイメージを大きく担い、同社のユニークな特徴です。同施設は、この土地を中心として得た原材料、この土地での製造をアピールする施設となっています。

南フランスを中心とした生産活動を重視している企業であることをアピールしている施設です。原材料となる南フランス特有の香草や薬草を見ることができる庭園がこの施設をよりユニークにしていると言えるでしょう。

まとめ

今回紹介した施設はいずれも世界的に有名な企業ですが、それぞれのユニークな特徴、その企業「らしさ」が施設に表れています。いずれも共通しているのは、製品そのもののアピールが中心ではなく、企業の「思い」を提示することが重視されていることでしょう。

企業の「思い」とは、企業が大切にしている価値観や哲学、未来へのビジョン等ですが、上記の3事例はそれが建築やコンテンツ、施設内でのプログラムにうまく反映されている好例です。

企業のブランド発信施設は、顧客やステークホルダーが訪れ、「こういう会社なんだ」と思い描ける、企業のブランドイメージを体現するデザインやコンテンツを提示する必要があるということがわかります。同時に、上記3施設の展開を見てみると、ブランド発信施設を通じて、企業やそのブランドに興味を持ち、好きになってもらうためには、アート展示や体験、観光的な要素を盛り込む等、その企業や製品の大ファンでなくとも訪れたくなる、楽しめる施設であるということも重要な要素かもしれません。

レポート執筆者
丹青研究所

レポートを執筆した丹青研究所は、日本唯一の文化空間の専門シンクタンクです。
文化財の保存・活用に関わるコンサルや設計のリーディングカンパニーであるとともに、近年は文化観光について国内外の情報収集、研究を推進しています。
多様な視点から社会交流空間を読み解き、より多くの人々に愛され、求められる空間づくりのサポートをさせていただいております。

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