【イベントレポート】運営者がホンネで語る 企業ミュージアムのリアルと波及効果

2025年6月17日、「point 0 marunouchi」にて、企業ミュージアム(クロステックミュージアム、いすゞプラザ、ロマンスカーミュージアム)を運営する企業の皆さまをお招きし、「つくって運営したからこそわかったことや気づき」をテーマにイベントを開催しました。 単なる展示にとどまらず、ファンづくりにも重要な役割を果たす企業ミュージアム。当日は、業種も目的も異なる3館それぞれの担当者が現場のリアルな声を語る貴重な場となり、参加者の満足度も非常に高いものとなりました。この記事では、その模様をレポートします。

登壇者紹介

パネリストは、株式会社ミネベアミツミの小峯氏、いすゞ自動車株式会社の植原氏、株式会社小田急エージェンシーの松村氏。司会進行を株式会社丹青社の山崎が務めました。

クロステックミュージアム 株式会社ミネベアミツミ 小峯 康生

広報・IR室長 クロステックミュージアム館長

1984年ミネベア(現ミネベアミツミ)入社。国内で数年勤務したのち、タイ、シンガポール、アメリカに赴任。営業及び工場製造責任者を務めるなど社会人の半分以上(22年間)を海外で過ごす。2013年広報室長。2016年新規照明製品事業の立ち上げとともに営業統括責任者、副事業部長を務め、2022年再び広報室長。2023年からクロステックミュージアムの館長を兼務。

https://www.minebeamitsumi.com/xtechmuseum/

いすゞプラザ いすゞ自動車株式会社 植原 浩一

広報部企業市民活動推進グループ シニアエキスパート

法務、コンプライアンス推進、サステナビリティ推進にて各種規則や方針策定、統合報告書やサステナビリティレポート編集などに従事し、2023年より広報部にて企業ミュージアムの管理業務を担当。

https://www.isuzu.co.jp/plaza/

ロマンスカーミュージアム 株式会社小田急エージェンシー 松村 尚

ロマンスカーミュージアム副館長

法政大学文学部史学科卒業後、私鉄グループの旅行会社に入社。11年間、教育旅行の団体営業に従事し、毎年、数十本の修学旅行や学校行事の添乗を務める。2022年、UDS株式会社に入社、ロマンスカーミュージアム副支配人として、運営・労務管理、外部営業などに従事。2023年、株式会社小田急エージェンシーに転籍。現在は、ロマンスカーミュージアム副館長を務めている。博物館学芸員。観光プランナー。

https://www.odakyu.jp/romancecarmuseum/

株式会社丹青社 「場と人」編集長 山崎 泰

丹青研究所で商業施設の調査・企画に携わった後、1997年に丹青社の社内新規事業「Japan Design Net(JDN)」立ち上げに参加。「JDN」「登竜門」など運営メディアの編集長、コンテスト企画制作ディレクター等を務め、2011年にJDN取締役就任。2025年、丹青社に移籍し現職。デザインに関する取材、トークや審査会のコーディネート多数。

https://www.tanseisha.co.jp/

施設紹介:クロステックミュージアム

小峯 康生 氏(以下、小峯) ミネベアミツミは、8つのコア事業を通じて幅広い市場に多様なアプリケーションを展開する総合精密部品メーカーです。「クロステックミュージアム」は、2023年の東京本部汐留移転に伴い設立されました。小学5年生をメインターゲットにしつつ、近隣住民やビジネスパーソンにも親しまれている約850㎡の施設です。10人のクロスレンジャーがナビゲーションキャラクターとして登場する点も特徴です。

山崎 泰(以下、山崎) このイベントに先立って、皆さまには相互に企業ミュージアムを視察し情報交換していただいております。さて、「クロステックミュージアム」はいかがでしたか?

植原 浩一 氏(以下、植原) 一番感心したのが、わたしたちが最もアプローチしたい中高生に届く展示ができている点です。表面上は小学生向けの解説になっていても、実は引き出しを開けるとマニアックなものが出てくるなど、専門家にも楽しめる奥行きのある情報提供の仕掛けが素晴らしいと思いました。

松村 尚 氏(以下、松村) スマートフォンなどの日用品から、クルマや航空機にいたるまで、非常に幅広い事業を手掛けられていることに純粋に驚きました。学校向けのプログラムもよく練られていて学ぶところが多かったですし、小峯さんのイキイキした説明が印象的で楽しいひとときでした!

施設紹介:いすゞプラザ

植原 「いすゞプラザ」は、弊社の認知度向上を目的に8年前に開館しました。現在は商用車(バス・トラック)のみを製造しているため、20~30代ではいすゞを知らない方も増えています。実物の車両を「見て、触って、乗る」ことで身近に感じてもらい、若年層のファン獲得につなげています。毎年7万人を超える方が来られますが、そのうち6割はお子さま連れです。昨年の小学校社会科見学は77校・6810名で、最近は海外向けのバーチャル社会科見学も始めました。展示は1階にジオラマや乗車体験、2階には塗装の疑似体験、ドライブシミュレーター、旧車展示なども人気です。お餅つき、お子さまが「つなぎ」を着られる撮影会、クリスマスコンサート、絵本の読み聞かせ、警察とのコラボイベントなど多彩な催しを開催しており、入館料やイベント参加などはすべて無料です。

山崎 では「いすゞプラザ」について感想をお聞かせください。

松村 送迎がまさかの観光バスだったので驚きました(笑)。いすゞ自動車らしいおもてなしだというのが第一印象でしたね。敷地の広さもインパクト絶大で、館内には実物の車両が多数展示されていて迫力に圧倒されました。歴史の展示や製造工程の説明も細やかで、見て・聞いて・触れて…のガイドツアーはとても充実していました。

小峯 弊社は小さい部品を作っているので、スケール感は出しづらいんですけれども、いすゞ自動車ですと「貨物車両」のような大きなものがあるので展示がパワフルだと思いました。バスのピンポンも押し放題で楽しかったです(笑)。都バスも、我々の工場でよく見かけるあの貨物車両も、いすゞ自動車が製造しているのかと純粋に驚きました。工場が隣にありますし、製造ラインを実際にミニチュアにして置かれている展示には、ものづくりの叡智が結集されていると感じました。

施設紹介:ロマンスカーミュージアム

松村 「ロマンスカーミュージアム」は、小田急電鉄が設立し、小田急エージェンシーが運営。2021年の開業から5年目を迎えました。事業コンセプトは「子どもも大人も楽しめる鉄道ミュージアム」。企画コンセプトは「電車だけじゃない、ワクワクを。」デザインコンセプトは「Playing Garage(魅せる検車庫)」です。ミッションとして「ロマンスカーの魅力を通じて『感動』『笑顔』『未来』をつくる」と掲げています。1階はヒストリーシアターと実車両の展示、2階は丹青社がデザインしたジオラマパークで、45分に1回のプロジェクションマッピングが見どころです。「ロマンスカーシミュレーター Lite」は最近導入した新コンテンツ。地域連携や企業コラボイベントも積極的に展開していますし、併設のミュージアムカフェやショップもたくさんの方にご利用いただいています。

山崎 「ロマンスカーミュージアム」を視察されていかがでしたか?

小峯 立地が素晴らしかったです。小田急線に乗って海老名まで行き、そうするとロマンスカーミュージアムがあって、そこで1日を堪能してご飯も食べて小田急線に乗って帰る。小田急線で1日が終わるという魅力的な体験設計ができています。ふだん見られない部分が間近で見られるのも堪らないですね。プロジェクターに手をかざすと線路が伸びて、街ができて、人が集まって…と都市開発の様子を直感的に理解できる展示も面白かったです。

植原 いすゞプラザでも、ペーパークラフトで車両を組み立てるデザイン教室はあるのですが、走らせる場所がなくて。ロマンスカーミュージアムは、自分でつくったあとに動かすところまでできたので、これは子どもたちは喜ぶだろうなと。ぜひ参考にしたいと思いました。

>事例紹介:ロマンスカーミュージアム ジオラマパーク

テーマ1「運営上の課題は?」

植原 子ども向けに作っているコンテンツが多いため、ファミリー層へのアプローチはしやすいのですが、ビジネスシーンでは何を訴求できるのかが課題です。現在、自動車業界で注目されているのは自動運転やカーボンニュートラルなどの新技術・新しい取り組みです。いすゞ自動車がそうした分野で何をしているのか、どこまで進んでいるのかを理解・体験できるような展示が必要だと感じています。

松村 業務の属人化ですね。たとえばイベントひとつをとっても、企画担当、営業担当、広報担当、運営担当と分かれていて、情報共有が不十分な場合、「その人がいないと進まない」という状況が生まれがちです。チームとしてしっかり連携し、適切な業務分担をすることが今後の課題ですね。ただ、比較的若いスタッフが多いこともあり、イベント開催が決まったときの爆発力や機動力は非常に高いです。一体感を持って業務に取り組めるような体制を整えていきたいと考えています。

小峯 もっとも悩ましいのは予約管理です。小学生の社会科見学、大切なお客さまの視察、海外からのゲストなど、ダブルトリプルで予定がバッティングすることも多いんです。学校は日程変更が難しいため、優先順位を考えながら他の予定を調整しています。結果として、予約確定だけで丸一日かかってしまうこともあり、なんとか効率化したいですね。

テーマ2「来館促進の工夫は?」

松村 継続的な情報発信がカギだと思っています。開業初年度は約22万人が来館しましたが、その後は年間16〜17万人ほど。新規の方にもリピーターにも楽しんでいただけるよう、計画的に情報を発信しています。年に4回の大規模イベント(春・夏・秋・冬)を基本とし、単発イベントや外部からの持ち込みイベントも実施しています。その際、ターゲットや地域(海老名周辺、小田急沿線、神奈川県全体、東海エリアなど)によって訴求の仕方や告知内容も変えています。ファミリー層向け、鉄道コア層向けなど、それぞれに合わせた戦略的な発信を心がけています。

小峯 ~小学5年生から、ものづくりの技術を体感できるミュージアム~と謳っていますので、小学校へのお声がけは積極的に行っています。昨年度は約40校、約 3400 人ぐらいの子どもたちが来てくれましたし、現在も多数の予約が入っています。今後もここは強化したいので、教育委員会への訪問や学校への直接アプローチを通じて、さらなる来館促進を図っていきます。

植原 ファミリーが1日楽しめる施設という印象が強いのですが、今後は中高生をもっと呼び込みたいと考えています。そこで、10代向けのイベントを企画中です。もちろん、館内全体を10代向けにアレンジするのは難しく、イベントだけでどれだけ集客できるかという点も含め、現在トライアルを重ねているところです。

テーマ3「運営スタッフの研修は?」

小峯 広報室10名のうち、6名がミュージアムを担当しています。最初は丹青社さんに運営マニュアルを作っていただき、それをベースに柔軟な対応ができるよう体制を整えました。対象が小学生、大学生、社会人と異なることで伝え方も変わってきます。また、ベアリング、モーター、半導体など用途に応じて知りたい情報も違います。6名全員が各対象に合わせた案内ができるよう、時々アテンドに同行してフィードバックを得ますし、気づいた点は随時マニュアルに追加しています。

植原 運営はグループ企業に委託しており、実際にご案内するアテンダントは派遣社員10名です。マニュアルも整備されていますし、8年経って経験値も溜まっているのでOJTが基本です。ただ、会社が大きく変化していく時代で、館に求められるものも変わるので、年2回全スタッフ会議を行っています。子どもたちの質問も多いため、「自動運転とは?」「カーボンニュートラルとは?」「FCVとEVの違いは?」など、アテンダントの方にはマニュアルを通じてお伝えするだけでなく、Q&A集を随時更新しています。わたしが直接レクチャーすることもありますし、必要に応じて、開発部門や海外担当者を招いて理解を深める取り組みもしています。

松村 ミュージアム部門には約30名が在籍しています。わたしたちも年2回、施設の防災訓練を兼ねた全体研修を行っており、その場で年度方針・目標、スタッフへの期待などを共有します。ちなみにその研修が本日午前にありました。施設での接客はミュージアムや小田急グループ全体の印象にも直結するため、接客・サービス向上の研修にも力を入れています。たとえば、スタッフの希望に基づいて「手話研修」を実施し、簡単な館内案内が手話でできるよう練習したこともありました。こうしたスタッフの声は、今後も大切にしていきたいですね。

Q&A「収支の考え方」「満足度調査」「新装計画の進め方」

山崎 オンラインでもたくさんの質問が寄せられているので、お一人ずつ好きな質問を選んで回答いただきたいと思います。

 

 

植原 みなさんが気になるであろう「収支の考え方について」お話しします。いすゞプラザは無料なので、広報の予算で運営しています。実は「どの部署が企業ミュージアムを抱えるか」は、非常に大事なポイントでそれによって収支の考え方は大きく変わります。開館当初はCSR推進部のプロジェクトとして、社会貢献活動の一環として位置づけられていました。その場合、ESG評価などが重視されますが、こうした施設は投資対効果の指標になじみにくく、結果として予算が削減され、運営が厳しい状況に陥りやすいです。それが広報部の管轄になると、「いすゞ自動車を知ってもらう」「実際に見て触れてファンになってもらう」といった目的になるので、施設としては馴染みがいい。ブランドイメージを醸成するにしても、一過性の広告とは違って、継続的にお客さまとコミュニケーションできるメリットは大きく、予算がつきやすくなります。細かい収支の計算よりも、企業としてのKGIをどう捉えるか、長期的な視点でミュージアムの役割を定義することが大切だと思います。

松村 わたしは「満足度調査」を選びました。昨年からアンケート調査を始め、お客様のリアルな声を集めています。設問内容は基本的なもので、来館目的やお目当ての展示・イベントについて伺っています。「孫がとても喜んでくれた」「家族で大満足でした」といった温かいご感想をいただく一方で、厳しいご意見もあります。そうした声にも真摯に向き合い、できる限り改善に努めています。それからわたしたちの場合は、広告代理店が運営する施設だからこそ「満足度を高めるためにできること」があると考えています。今後も、調査を通じて得たデータを活かしながら、より良い施設運営につなげていきたいです。

小峯 「新装計画のプロジェクトの進め方」についてアドバイスいたします。新設にあたり、4社によるコンペを実施し、最も優れた提案をしてくださった丹青社さんをパートナーに選んだのですが、そこからが大変。タイトなスケジュールでの進行を余儀なくされました。それでも無事に完成に至ったのは、弊社のトップである貝沼会長を含めた会議を30回以上行ったことです。最初は月1ペース、佳境に入ると週1ということもあったと思います。結果、トップダウンでの意思決定が可能だったこと、そして貝沼会長の考えをプロジェクトメンバー全員が共有する場を設けられたことが、計画遂行において大きな効果を発揮しました。それでも最後のほうは昼夜問わずフル稼働しましたけど…(笑)。

テーマ4「波及効果は?」

松村 ありました。ミュージアムが主催するイベントにとどまらず、小田急グループのリソースを活用した新たなイベントも実施できるようになりました。沿線自治体との連携を通じて観光PRや相互送客といった面でも確かな効果を実感しています。他の鉄道系ミュージアムともつながりができ、情報交換やイベントの共催も実現していますし、外部からのお声がけも日々増えています。もちろん、すべてに応えることは難しいですが、それだけ声をかけてもらえる存在になったこと自体、館の存在意義が高まっている証だと受け止めています。

小峯 社内的にも波及効果は大きいです。全事業部が広報を通じて連携する必要があるため、社内コミュニケーションの活性化につながりました。これまで7回ファミリーデーを行っていて、「一族全員連れてくるように!」と呼びかけているのですが(笑)、そうすると「こんなことやっているんだ」と家族にも理解してもらえるのでいいなと思っています。海外からの来訪者も増えており、ビジネスにおいても非常に大きな波及効果を感じています。

植原 わたしたちも、ビジネスをサポートする施設としての効果を実感しています。取引開始から間もない企業をお招きして、当社の全体像を理解していただく場として活用していますし、海外政府関係者を迎えてプレゼンテーションを行う機会もあります。それから横浜で開催されたイベントなどでお客様と話していると、「いすゞプラザに行ったことがあります」「とても良かったです」といった声をいただくことがあり、ブランドイメージの向上にもつながっています。隣接する自社運営のカフェやホテルをリーズナブルに利用できるという点でも高評価をいただいています。地道かもしれませんが、確実にファンを獲得できていると感じています。

ホンネで語られた企業ミュージアムのリアル

山崎 最後に、本イベントの感想をそれぞれお願いします。

小峯 今回、2館を実際に見学させていただき、改めてそれぞれのミュージアムがまったく異なる特色を持っていることを実感しました。これまでにも多くの企業ミュージアムを見てきましたが、植原さん・松村さんにご案内いただく中で、展示手法や見せ方において多くの学びがありました。これから企業ミュージアムをつくろうとする方には、ぜひさまざまな館を訪れて、実際に体験して参考にすることをおすすめしたいです。

植原 同業種のミュージアムでは、展示手法が似てくる部分があります。だからこそ、あえて異業種の取り組みを参考にすることで、新たな発想や刺激が得られると思います。今回は本当にありがとうございました。

松村 企業ミュージアムを運営する方は、ぜひ楽しんで取り組んでほしいと思います。スタッフが楽しんでいる姿は、そのまま来館者にも伝わり、私たちの場合でいえばロマンスカーの魅力を伝える原動力にもなります。これからも、そうした姿勢を大切にしていきたいです。

山崎 本日、登壇された企業さまのミュージアムは、いずれも丹青社が手がけています。空間づくりのプロフェッショナルとして丹青社が提供する価値は、「空間づくりによる課題解決力」です。高い専門性と発想力・対応力と豊富なネットワークで、みなさまの信頼と期待に応えます。ご一緒できる機会がありましたら、ぜひお気軽にお声がけください。

取材・執筆:吉岡奈穂
編集:山崎泰

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