コラム

企業のメセナ活動:知見や技術をミュージアムで公開

SDGs達成への取り組みが重視される昨今、企業のメセナ活動は多様化していると考えられます。企業の中で蓄積されている知見や技術、サービスなどを、事業活動とは別に広く一般に公開し、教育活動を行ったり、人々に楽しみを提供したりすることもその一環といえるでしょう。企業がミュージアムという施設を構えることにより、広いターゲットに継続的にプログラムを提供することや、地域に根付いた活動が可能となります。本コラムでは、海外において、ミュージアムを舞台として企業がメセナ活動を行っている事例を紹介します。


※このレポートは2022年6月に執筆したものです。

※レポート内のリンクにつきましては執筆時に確認した外部Webサイトのリンクになります。


企業が展示で現代的課題に取り組む
―ネスレの「食」にまつわるミュージアム

コーヒーや乳製品で世界的に知られるネスレが設置・運営

アリマンタリウムは、スイスの大手食品・飲料会社であるネスレが設置、運営しているミュージアムです。自社の製品やサービスを紹介する企業ミュージアムと異なり、ネスレのメセナ活動として、アリマンタリウムでは「食」全般をテーマに展開しているのが特徴です。

施設内は、食の世界を表現した常設展と、毎年異なる食の側面を取り上げた企画展、そして庭園の3つで構成されています。

 

さまざまな角度から「食」について学ぶ常設展

「食―生命の本質」をテーマに掲げた常設展は、あまりにも日常的ゆえ普段あまり深く考えることのない「食べる」という行為の意味をより深く理解するために、さまざまな展示や実験・体験コーナーを設けています。

食べ物の生産・調理・加工・流通などの過程について学ぶ「食部門:私と外界」、食べ物によって人類がどのようにつながってきたのかを社会的・文化的な視点から学ぶ「社会部門:私と他者」、そして五感や消化器官など食べることにまつわる身体的機能について学ぶ「身体部門:私と私の身体」の3つの展示スペースで、「食」のさまざまな役割を紹介しています。

 

「食」のトレンドに向き合うユニークな企画展

2022年4月まで実施されていた最新の企画展「#ビーガン(#vegan)」では、広く社会現象になりつつあるビーガン(菜食主義)にフォーカス。菜食主義とはどのようなものかという説明から始まり、人々の食の選択、その選択に影響を与えるメディアについてなど、現代社会の食を取り巻く状況を語るものとなっています。

このほか、子どもの料理体験から伝統料理を学ぶ料理教室などのワークショップも多数開催。オンライン上では、子どもから大人までが食と五感、食と栄養、調理、消化器官などについてより深く学べるコースが用意されています。

企業についてではなく、企業が事業領域としている「食」についての教育機会を提供するというメセナ活動。子どもだけでなく、大人も楽しめる工夫がなされています。

地域に貢献するためのプログラムを提供する場
-業務用チョコレートメーカーによるミュージアム

大手メーカーが地域貢献の一環として設立

シテ・デュ・ショコラは、世界のトップ・ショコラティエたちにも支持されているフランスのチョコレートメーカー、ヴァローナが展開する企業ミュージアムです。

業務用の製品メーカーでありながら、メセナ活動として、一般向けに楽しみながらチョコレートについて学べる場を提供しています。

ヴァローナは国際企業であるが、地域に根ざすことの重要性を意識しており、このミュージアムを地域貢献のためのコンテンツと考えています。

 

バラエティ豊かなワークショップが人気

広い施設内には、ユニークな展示を通して五感を使って体感的にチョコレートについて学べる見学コースがあるほか、ヴァローナの講師によるお菓子づくりなどの各種ワークショップも行われています。ワークショップでは幅広いプログラムが用意されており、子どもからプロのショコラティエまでさまざまなレベルの人が満足できる充実の内容となっています。

また、困難な状況にある若者や病気やハンディキャップを抱える子どもを対象としたプログラムもあり、社会的に弱い立場にある人々を支援することにも注力しています。

 

チョコレート三昧の1日が過ごせる

チョコレートを使ったスイーツや料理を提供するカフェや、多種多様なチョコレートやグッズを販売するショップもあり、1日たっぷり楽しめます。タブレットや絵本を置いたキッズ専用スペースも完備し、全体的にファミリーフレンドリーなつくりですが、プロ御用達メーカーだけあり業界関係者からの注目度が高いのもこの施設ならではです。

チョコレートの歴史や文化なども紹介し、「おいしい」だけでないチョコレートの魅力に迫れるミュージアム。多彩なプログラムには、地域・社会貢献への意識の高さが見てとれます。

学校向けの教育プログラムが充実
フェラーリの歴史から技術まで学べるミュージアム

フェラーリの魅力を発信する2つのミュージアム

フェラーリミュージアムは、イタリアの中北部、モデナにあるフェラーリが運営するミュージアム。

モデナ郊外の町、マラネッロに建つ本社に併設されたフェラーリミュージアム・マラネッロと、創業者であるエンツォ・フェラーリの生家に整備されたエンツォ・フェラーリミュージアム・モデナの2つに分かれており、いずれもフェラーリの創業の地にて、創業者のスピリットや会社の歴史や技術を紹介しています。

 

学校団体向けに2つの教育プログラムを用意

どちらのミュージアムにおいても、「レッド・キャンパス(Red Campus)」、「イエロー・キャンパス(Yellow Campus)」というテーマの異なる2つの教育プログラムを用意。ミュージアムの展示を活用しつつ、学校のカリキュラムや年齢に合わせて誰もが楽しく学べるよう構成されています。

レッド・キャンパスでは、研究や技術、イノベーションに焦点をあて、エンジニアリングやチームワーク、マーケティングについて学ぶことができます。一方、イエロー・キャンパスでは、フェラーリ創業の物語や、創業者エンツォ・フェラーリの人物伝などについて知ることができます。

観光客やファンも多く訪れるであろう本ミュージアムにおいて、メセナ活動として教育プログラムが充実していることは注目に値します。歴史や製品だけでなく、技術や仕事(チームワーク、マーケティングなど)にもフォーカスしているところが興味深いです。

企業が地域のミュージアムを資金面、技術面でサポート

3Dスキャナー企業がサポートするものづくりラボ

カナダのケベック州にある文明博物館が2018年に館内に新設したエムラブ・クレアフォームは、人々がテクノロジーについて五感で学べるユニークなラボとなっています。施設内の機器や設備を使い、最先端のデジタル技術を用いたものづくりや実験を行うことができます。

このプロジェクトをサポートするのは、最先端のポータブル3D測定および分析技術を開発、製造、販売するケベックの企業、クレアフォーム。同社はメセナ活動としてタイトルパートナーとなり資金援助しているとともに、同社のポータブル3DスキャンGo!SCAN 3Dを提供しています。そのほか、TTS(本社イギリス)も子ども用プログラミングロボットBlue-Bot®などの最新の機器・設備を提供しています。

 

ソフトウェア会社によるエンジニアリングを伝える展示

企業がメセナ活動としてミュージアムを支援する活動は他の都市でも展開されています。ボストンの科学館では2021年にエンジニアリングをテーマとした新しい常設展示コーナー、エンジニアリング・デザイン・ワークショップがオープンしています。ソフトウェア会社のマスワークスがスポンサーとなるとともに、マスワークスのエンジニアが展示企画に参画。「エンジニアリングが問題解決をし、人々の生活に役立っている」ということを伝える展示となっています。

既存のミュージアムに対して、地元企業がメセナ活動としてサポートしている事例。資金面だけでなく、企業の知見や技術が地域に役立つ好例です。

まとめ

100以上の日本の企業が参加する公益社団法人企業メセナ協議会が行った「2021年度メセナ活動実態調査」の結果によると、企業がメセナ活動の取り組みにおいて重視する点として、「地域文化の振興」、「まちづくり・地域活性化」、「地域社会との関係づくり」を挙げる企業が多く、以前の調査を比較してみても、「地域」を重視する企業が増えているようです。

今回紹介したネスレ、ヴァローナ、フェラーリは、全て国際的に事業展開を行っている企業ですが、ネスレのアリマンタリウムは地域の学校の長期休みに合わせたプログラムを実施しているし、ヴァローナは本文中にも紹介したように、地域貢献を目的としてシテ・デュ・ショコラを設置しています。学校団体の利用を重視しているフェラーリは言わずもがなです。

近年、コロナ禍において、さまざまな分野で改めて地域での展開が見直されてきています。加えて、世界的な潮流として、企業ミュージアムを含め、ミュージアムが地域の社会インフラとしてコミュニティに貢献する役割が重視されつつあります。企業が地域とのつながりをつくり、地域に根ざすためのメセナ活動を行う拠点として、ミュージアムは今後ますます大きな役割を担う場となっていくでしょう。

丹青社では企業ミュージアムの企画、設計、制作、運営を一気通貫でお手伝いいたします。
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