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ユニバーサルミュージアムとは?実現に向けた具体的な取り組みをご紹介

Date: 2024.02.16

世界的に多様性が追求される昨今、美術館や博物館などのミュージアムの見せ方も変化を遂げています。これまでとは違うアプローチでありながら、汎用的なユニバーサルミュージアムは、今後のスタンダードになっていく可能性もあります。

今回はユニバーサルミュージアムを取り上げ、実現に向けた具体的な取り組み方法や事例をご紹介します。

ユニバーサルミュージアムとは

ユニバーサルミュージアムとは、性別、年齢、障がいの有無、国籍、言語、宗教、文化を問わず、すべての人が利用できる美術館や博物館などの施設を指します。

新しいミュージアムの形であり、まだ明確に定義が定められているものではありませんが、一般的にユニバーサルデザインの考え方に基づいています。

ユニバーサルとは「普遍的な」「全体の」との意味があり、ユニバーサルデザインは「すべての人のためのデザイン」を表します。年齢や障がいの有無などにかかわらず、できるだけ多くの人が利用可能になるように、はじめから考慮してデザインすることをいいます。

そのユニバーサルデザインをベースとしてつくりあげるユニバーサルミュージアムの目的は、すべての人にわかりやすく展示物を伝えることにあります。従来のように、ただ展示を見せるだけでなく、見る人の多様性を前提としてつくりあげるのが特徴です。

企業がユニバーサルミュージアムに投資するメリット

企業がユニバーサルミュージアムに投資するメリットは多岐にわたります。以下にいくつかのポイントを挙げます。

 

1.社会的責任(CSR)の実践

企業がユニバーサルミュージアムに投資することは、社会的責任(Corporate Social Responsibility, CSR)の一環として認識されることがあります。障害者や高齢者など、多様なバックグラウンドを持つ人々が利用しやすい環境を支援することで、企業は社会的な包摂と平等に貢献していると見なされるでしょう。

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2.ブランドイメージの向上

ユニバーサルデザインの原則に基づいた施設への投資は、企業のブランドイメージを向上させることができます。企業が多様性と包摂性を重視しているとの印象を与え、消費者やビジネスパートナーからの信頼と評価を得ることができるでしょう。

 

3.新たな顧客層の開拓

ユニバーサルミュージアムは、障害の有無にかかわらずすべての人々に開かれています。そのため、これまでアクセスが困難だった顧客層を取り込むことができ、市場の拡大につながる可能性があります。

 

4.従業員の満足度とモチベーションの向上

企業が社会的な価値を持つプロジェクトに投資することは、従業員の誇りや満足度を高めることにつながります。従業員が自社の社会貢献活動に誇りを持つことで、社内のモチベーションやエンゲージメントが向上する可能性があります。

ユニバーサルミュージアムを実現するための具体的な取り組み

ユニバーサルミュージアムを実現する際に、具体的にどのような取り組みが考えられるのでしょうか。主な取り組みをご紹介します。

 

1.バリアフリー化

バリアフリーとは、あらゆるバリアをなくすことを指します。例えば、車椅子を利用している人など、どのような方でも入退館しやすく、また回遊しやすくするために段差をなくす、スロープを設置するなど利用しやすい環境を作ります。

 

2.視覚・聴覚障害者への配慮

展示物の音声ガイドや点字ブロック、手話や字幕を用いたガイドの表示など、視覚・聴覚障害者の方への配慮を行います。

 

3.多言語対応

外国人の方でも展示を楽しめるように、あらかじめ多様な言語での説明文や音声ガイドを用意しておき、選択できるようにします。

 

4.さまざまな宗教への対応

宗教問わず展示を楽しめるようにする配慮の一つに、祈祷室の設置という取り組みも考えられます。

 

5.インクルーシブデザインを意識した展示

展示物そのものにインクルーシブデザインを配慮することも一案です。さまざまな文化や価値観を持つ来館者が鑑賞しやすいように、鑑賞するシーンを想定した上で、インクルーシブ(包括的)な視点でデザインを行います。それぞれの文化や価値観を尊重した展示を行い、多様性を認識し理解する機会を提供します。

 

6.デジタル展示

デジタル技術を活用して、物理的な制約を越えたアクセスを可能にするデジタル展示は、今後発展が期待できる領域です。例えばオンラインでの展示閲覧やVR(バーチャルリアリティ/仮想現実)やAR(Augmented Reality/拡張現実)を用いた体験などが挙げられます。

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7.体験型展示

体験型展示は、来館者が展示物に触れたり動かしたりすることにより、学びや体験が得られる工夫を施す展示手法です。子どもから大人まで年齢問わず楽しむことができます。

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ユニバーサルミュージアムを意識した施設事例

ユニバーサルミュージアムを意識した施設の事例をご紹介します。

 

1.北九州市立自然史・歴史博物館 いのちのたび博物館

北九州市立自然史・歴史博物館 いのちのたび博物館は、「自然と人間の関わりを考える共生博物館」を理念とし、生命の進化の道筋と人の歴史を展示するミュージアムです。

近年はリニューアルを重ね、2014年からはユニバーサルミュージアム化事業がスタート。障がい者や日本語以外を母国語とする人の協力の下、展示解説・館内サイン・音声ガイド・情報端末のあり方を検討するワークショップを実施して課題を抽出し、展示に反映しています。

 

2.福岡市博物館

福岡市博物館は、地域の歴史などを展示する施設です。2013年にはリニューアルを行い、福岡市がまちづくりの目標像として掲げている「みんながやさしい、みんなにやさしい―ユニバーサル都市・福岡」にふさわしい、誰もが利用しやすく分かりやすい展示によるユニバーサルミュージアムを目指しました。

改修方針の検討はインクルーシブデザインの手法を用いたワークショップ形式で進めたのが特徴です。親子や障がい者、外国人など多様な博物館利用者の意見も取り入れて具体化しました。

また展示順路が分かりづらい、目玉となる資料の展示場所が分かりづらいといった意見を受け、迷わずに見学できる一筆書きの動線に改善したこともユニバーサルミュージアムとしての特徴といえます。

 

3.南山大学 人類学博物館

南山大学の人類学博物館は、ユニバーサルミュージアムの新しい形を探る試みを実践した施設です。

従来、博物館を利用しにくかった人たち、特に視覚に障がいのある人たちも展示を楽しめるよう、資料に「触れる」ことをコンセプトにしています。

構築の過程では視覚に障がいのある人に考古資料や民族資料に実際に触れてもらい、検証作業を繰り返し実施。また展示造作のデザインは試作を繰り返し、資料に触れやすい形状や寸法を検証して制作しました。

まとめ

ユニバーサルミュージアムは、近年の多様性を重んじる思想の高まりに沿った、これからの時代にふさわしい施設です。ユニバーサルな視点や多様な人々の生の意見を取り入れて、検証を積み重ねて構築していくことが重要です。

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