コラム

体験・体感型企業ミュージアム3選のご紹介

日本で、2017年以降にオープンした企業ミュージアムは100以上にも及び、2017年以降にリニューアルオープンした企業ミュージアムも100館程度にのぼります。(総合ユニコム マーケティングリサーチ「企業ミュージアム」より)。

日本でも多様な企業ミュージアムが設立されていますが、本稿では、海外における、体験・体感を重視した有名企業ミュージアムを3館取り上げ、それぞれの在り方を探りました。


※このレポートは2022年12月に執筆されたものです。
※レポート内のリンクは執筆時に確認した外部Webサイトのリンク、画像はイメージ画像になります。

コカ・コーラの世界に浸る
老舗の企業ミュージアムでありながら、進化を続ける

コカ・コーラが持つ、大型展示体験施設

アメリカ・アトランタにあるコカ・コーラの大型展示体験施設。コカ・コーラの公式サイトにおいて、ワールド・オブ・コカ・コーラとは、「コカ・コーラの企業の歴史とそのブランドを紹介するミュージアムである」と表現しています。

延床面積が約27,000㎡にも及ぶ大型施設で、ペルーのインカコーラ、ルーマニアのスプライト・キューカンバーなど、世界の飲み物を試飲する体験、フレーバーを組み合わせるバーチャル体験など、体験要素を多く組み込んだミュージアムとなっています。

 

ミュージアムとして約30年もの歴史があり、集客力は抜群

本施設はもともと、1990年にアトランタのショッピングモール内に開館し、その後2007年に移転しました。現在はダウンタウンにほど近いセンテニアルパーク地区に立地し、周辺にはジョージア水族館公民権人権ナショナルセンター大学フットボールの殿堂など文化観光施設が揃い、コンベンションセンター、スポーツスタジアムも近く、アトランタの人気観光地となっています。コロナ禍前は年間約100万人が訪れると言われ、これまで約80カ国から2,300万人以上が訪れたといいます。

 

新しい取り組みも行い、進化を続ける

2020年に匂いと味覚のつながりを体験できる展示室をオープン、2021年には軽食を提供するボトルキャップカフェをオープン。さらには、2022年秋から、マジック・ミューラルズ(魔法の壁画)というインスタレーションを展開、コカ・コーラのポスターなどのイラストを手掛ける5人の女性イラストレーターの作品を展示しながら、AR技術を使い、スマートフォンでQRコードを読み取るとイラストが動き出すという体験を提供しています。さらには、館スタッフが館内を案内するガイドツアーを開始するなど、常に新しい取り組みを行っています。

企業ミュージアムといえば最初に名前が挙がる施設のひとつ。コカ・コーラというもともとファンの多いブランドでありつつ、展示替えや新規事業を積極的に展開し、変化し続けていることも大きな集客力の理由と考えられます。

本社に隣接した新施設
ブランドを発信するための2つのミュージアム

本社敷地内に作られたミュージアム棟

スウォッチ・グループが、拠点としているスイス・ビールに、2019年に設置した施設、シテ・デュ・タン。1階にオメガミュージアム、2階にプラネットスウォッチが設置されています。

シテ・デュ・タンの設立は、同敷地内のスウォッチの新社屋、オメガ生産本部(工場)の建設プロジェクトと同時に行われ、建築設計は日本人建築家の坂茂氏が手掛けました。シテ・デュ・タンは、スウォッチ新社屋とオメガの生産本部の間にあり、両者をつなぐ建物として設計されました。ガラス張りのモダンなファサードが特徴で、高床式の建物の下を人々が行きかうことができ、敷地内の物理的なつながりを生み出すことをめざしたそうです。

 

2つのミュージアムを集約、多機能な施設へ

シテ・デュ・タンの内部には、スウォッチ・グループの中でも不朽の人気を誇るオメガとスウォッチのミュージアムを集約。オメガは1983年から同敷地内の工場に隣接して非公開の時計博物館を持っていましたが、その後2010年にリニューアルし、一般向けの博物館としてオープンしていました。一方、スウォッチもジュネーブにミュージアムを持っており、それぞれが2019年に当施設に移転・入居した形です。シテ・デュ・タン内は、ミュージアムのほか、カンファレンスホールなども備え、各ブランドや新作モデルの発表会も行われます。

 

ブランドを表現する空間づくり

オメガミュージアムでは、オメガの代表的なプロダクト、「スピードマスター」を展示室デザインのモチーフとしており、長さ50メートルのスチールブレスレットを模した展示ケースが配置されています。「オメガ」の長い歴史を語る各モデルの展示のほか、オリンピックやNASAのプロジェクトなどで使用されてきたことを紹介。来館者は、9メートルのランニングトラックを走り、オリンピックでオメガが使用した計時技術でタイムを記録できるなど、体験要素も魅力です。

プラネットスウォッチでは、明るいカジュアルな空間の中で、初期のモデルから最近のモデルまで多数展示、コラボグッズなども併せて紹介しています。

坂茂氏は、スウォッチ本社、オメガ生産本部のそれぞれの建物に対して、オメガとスウォッチの2つのブランドのキャラクターを端的に示すよう、全く異なるデザインコンセプトとし、シテ・デュ・タンは双方の特徴を兼ね備えたものとしたとしています。ミュージアム内でも、オメガミュージアムは脈々と受け継がれた技術や時計としての精度の追求を、スウォッチ・プラネットはスウォッチのアートやスポーツとの関係、ポジティブさを伝え、商品の背後にあるスピリットをそれぞれのブランドらしい空間で表現しています。

自社の歴史を圧巻の車両展示でひも解く
メルセデスベンツのレジェンドを見せるミュージアム

メルセデスベンツの歴史と未来を多角的に体感できるミュージアム

メルセデスベンツ・ミュージアム・シュトゥットガルトは、ドイツ・シュトゥットガルトのメルセデスベンツの国際本部に隣接して2006年にオープンしたミュージアム。9階建て16,500㎡の特徴的な建築の内部で、テクノロジー、日常、社会の歴史、ポップカルチャーといった文脈から、メルセデスベンツにまつわる歴史や物語を紹介しています。

常設展示だけでなく、テーマを設定した歴代の車種紹介、アートコレクションの展示、子ども向け展示など、企画展示も精力的に行っています。コロナ禍前は年間80万人以上の来館者数を誇り、2018年には開館以来累計900万人の来館者数を記録しました。

 

圧倒的な数の車両展示

メルセデスベンツは、世界最古の自動車メーカーのひとつであり、同ミュージアムには馬車を改造した初期の自動車から近年のゼロ・エミッションを目指す自動車まで、それぞれの時代の自動車開発を表現する車両を展示されています。数にすると160以上の実車展示が展開されており、圧倒的な見ごたえがあり、メルセデスベンツの歴史の深さ、車種の豊富さが体感できるものとなっています。加えて、メルセデスベンツが手掛けたバスやトラック、世界的著名人が使用した車両なども展示されています。

 

過去を尊重し、クラシックカーを維持する取り組み

シュトゥットガルトには同施設のほか、クラッシック・センターがあり、同社のクラシックカーのオーナーに対する修理やパーツ交換などのサービスを行っています。メルセデスベンツ・ミュージアムのコレクションもこのクラシック・センターで整備されています。2022年8月には、アメリカ・ロサンゼルスにも同様のサービスを行うクラシック・センターをオープンさせており、オープン時のメルセデスベンツUSAのCEOへのインタビューによると、クラシック・センターには歴代の車両のほぼすべてのパーツが揃っているそうです。自社の歴史や歴代の製品に誇りを持ち、それを愛してくれるメルセデスベンツファン、オーナーを大事にする姿勢が感じられます。

自動車の黎明期から自動車を開発、さまざまなタイプの車を生み出してきたベンツだからこそできる、他の追随を許さない圧倒的な迫力を持つミュージアム。ベンツのファンにもそうでない人にもベンツのすごさを訴求する、ブランド体感空間となっています。

まとめ

今回紹介した3施設は、世界的に有名な大企業が持つミュージアムです。企業名や商品・サービス自体は既に多くの人に知られている中で、顧客とのタッチポイントとして企業ミュージアムの設立を選んだのはなぜでしょうか。それは、施設の機能や展示を見ると、「商品やサービスの背後にあるスピリット、物語を魅力的に紹介し、ブランドをより訴求したい」という戦略的理由があるのではないかと感じられました。個々の商品PRの場とは違い、ブランドの世界がこんなに楽しい、驚くほど商品の質が高い、人々の生活を支えてきた長い歴史がある、圧倒的な技術力があるなど、企業や商品を根本から体験・体感してもらい、企業やブランドをまるごと好きになり、長く愛してもらうための拠点であるように感じます。もちろん、企業ミュージアムはさまざまなタイプがあり、公共性や教育の視点など、施設によって異なる役割・機能を持つが、今回紹介した施設を見てみると、企業の大局的な観点からの広報ツールとしての役割はひとつの重要な観点であると思わされます。

レポート執筆者
丹青研究所

レポートを執筆した丹青研究所は、日本唯一の文化空間の専門シンクタンクです。
文化財の保存・活用に関わるコンサルや設計のリーディングカンパニーであるとともに、近年は文化観光について国内外の情報収集、研究を推進しています。
多様な視点から社会交流空間を読み解き、より多くの人々に愛され、求められる空間づくりのサポートをさせていただいております。

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