コラム

企業PRの成功事例│リアルな場である展示空間を活用

企業PRの方法は、紙媒体、動画、ウェブサイト、SNSなど幅広く存在しますが、オフィスややショールーム、イベント、展示空間など、リアルな場に顧客やステークホルダーに訪れてもらうことも有効な手段でしょう。企業を象徴するような、また垣間見られるような場で、リアルなコミュニケーションをとることは、企業を知ってもらい、関係をより深く、密にします。このレポートでは、展示空間を活用し、特徴的な企業PRを行っている事例をご紹介します。


※このレポートは2023年6月に執筆されたものです。
※レポート内のリンクは執筆時に確認した外部Webサイトのリンク、画像はイメージ画像になります。

企業のPRをミュージアムの展示で効果的に伝える

イタリアのヘルスケア企業による、企業の理念を伝えるミュージアム

アボカ社は、ハーブを利用したサプリメントやハーブティなどを製造するイタリアのヘルスケア企業です。人間の健康と地球の健康を向上するため、人間の身体と環境に敬意を払い、100%自然由来、生分解性のある製品をつくっていると謳っています。同社は、この理念や価値観、アイデンティティを伝えるインタラクティブなミュージアム、「アボカ・エクスペリエンス」を2020年、イタリア・アレッツォ県のサンセポルクロにオープンしました。

同社の創業の地は、同アレッツォ県内の丘が広がるアボカであり、サンセポルクロはアボカから車で10分程度の町。もともと同社はアボカ・ミュージアムを2002年、サンセポルクロに設置しており、ハーブと人間の長きにわたる関係を紹介していました。今回のアボカ・エクスペリエンスはアボカ・ミュージアムと同じ建物内に、展示室を拡張してオープンしたもので、これまでの展示を「歴史ツアー」、アボカ・エクスペリアンスを「インタラクティブツアー」と銘打っています。

 

製品ではなく、企業活動をインタラクティブな展示でPR

アボカ・エクスペリエンスの展示室内は、アボカ社が重視している科学的なイノベーション、健康、地球環境の持続可能性などをテーマに、次の5つの部屋で構成されています。

①アボカ社の歴史とストーリー
➁生物多様性を重視した生産サイクル
③研究活動
④持続可能な未来のための活動
⑤アボカ社のコミットメント

どの展示室も、アート性のあるインスタレーションやインタラクティブな映像、体験展示などの手法を活用し、施設の名前のとおり、来館者が各所で体験しながらアボカ社について知ることができる空間となっています。ミラノのデザイン事務所であるドットドットドット(Dotdotdot)が展示設計を行ったとのことです。

来館者が手元で操作するとアボカ社の歴史の中で重要な出来事の画像が現われるインタラクティブな年表、アボカ社が製品に利用しているさまざまなハーブの種子が展示され、その一つに手をかざすと、その植物の解説が目の前のスクリーンに現れるインタラクティブな映像展示、アボカ社の研究活動について映像で紹介する壁面のフラスコが光るインスタレーションなど、来館者の動きに反応する展示が展開されています。

アボカ社の製品を中心に据えるのではなく、アボカ社という企業のアイデンティティ、根底に流れる価値観、人間や地球環境に対するコミットメントを徹底して企業活動をPRする施設となっています。

展示室は体験を重視しながらも、デザインが洗練されており、子ども向けというよりは、大人に訴求する雰囲気です。地球環境への配慮、人間社会へのコミットメントを誇りとし、それが同社の強みであると認識し、アピールしていることが伺えます。

社会や地域との関係を背景に、見る人を巻き込みながら
企業をPRする展示施設

ノバルティス本社の敷地内に作られたビジターセンターとミュージアム

スイス・バーゼルにある製薬会社ノバルティスの本社オフィス敷地内につくられた目を引く建築、それが「ノバルティス・パビリオン」です。2022年に一般向けのビジターセンター兼ミュージアムとしてつくられました。円形スタジアムのようなフォルム、メタリックな外壁、約3万個のLEDライトが埋め込まれたファサードなど、建築自体が一つの芸術作品として考えられた、特徴的な施設です。

1階はアトリウム、カフェで構成され、訪れる人々がくつろげる場所、2階がノバルティスの革新的な医療とヘルスケアの世界をインタラクティブに学ぶことができる「医学の不思議」展示スペースととして展開されています。

 

多角的にノバルティスをアピールしながら、見る人を引き込む展示

2階の「医学の不思議」展示スペースでは、医療分野で、また、バーゼルという土地で、ノバルティスがどのように貢献してきたかを紹介する展示を展開しています。まず、深刻な病気とともに生きる人々の現状を見せたうえで、同社の薬の開発・製造の仕事を紹介し、同社が行う仕事の意義、重要性を伝えています。また、バーゼルという土地で医療の発展に寄与してきたことを、地図を使ったインタラクティブ展示で紹介するとともに、実物資料を展示しながら企業の歴史を紹介しています。最後に、ヘルスケアの未来というテーマで、来館者に「ヘルスケアは基本的な権利だと思うか?」といった、医療に関するディスカッションを生むような質問を投げかけるコーナーも設けています。

このように、製薬会社の仕事の意義、内容、地元での貢献、エポックメイキングな出来事といった、さまざまな視点からノバルティスの姿やアピールポイントを紹介するとともに、見る人を引き込み、思考を促すようなストーリーづくりを行っています。

 

「開かれたキャンパス」として

展示室で来館者の参加を促す仕組みを持つことと同様に、敷地全体も「開かれたキャンパス」というコンセプトでつくられています。冒頭で言及した約3万個のLEDライトを備えたファサードでは、アーティストが医療や環境からインスパイアされた作品を提供しており、サイエンスとアートが出会う場所と謳われています。また、スタートアップや研究機関、企業が入居できるオフィスの貸し出し、医療やサイエンスをテーマとしたイベントの開催など、ライフサイエンス分野でのディスカッションやコラボレーションを促す場をめざしています。

「病気を抱える人々に貢献するノバルティス」、「バーゼルという地域に貢献してきたノバルティス」というストーリー性を持たせた展開や、来館者の思考を促すエンディングで、より来館者が医療について関心を持ち、考え、ひいてはノバルティスの印象を強くすることをめざしていると思われます。敷地全体においても、地域や業界へ開き、多くの人々を巻き込む活動で、ノバルティスの企業の姿勢をアピールしていると言えるのではないでしょうか。

BtoB企業による、学生から潜在的顧客までを対象とした
アクティブなショールーム

紙と梱包関連製品の商社による、街なかのショールーム

ヨーロッパを拠点とする紙と梱包関連製品の商社、アンタリスがパリ13区にショールーム「ブレインストア」を2016年にオープンしました。学生から既存の顧客、アート・ディレクターやグラフィック・デザイナーなど、グラフィック・アートの関係者にインスピレーションを与える場所としてつくられたものです。

紙関連商品の卸売を手掛けるBtoB企業でありながら、同ショールームは、路面店のように大通りに面した1階に入居しています。長さ33メートルのガラスのファサードを通して、大通りから内部を見ることができ、通りかかる人へも訴求するショールームをめざしているということです。

 

顧客との距離を縮めるためのリアルな場

空間を印象づけているのは、同社の紙製品で構成されたカラフルな壁面です。さまざまな色のA4版の引き出しになっており、その色の紙が取り出せるようになっています。そのほかにも、同社で扱う素材でつくられたオブジェや1,500を超える紙商品の展示の他、テスト・ラボ、商談・アドバイス空間、意見交換の空間を備えています。同施設の公式サイトのトップ・ページでは、専門家との個別相談を申し込めるようになっており(ビジネス利用のみ)、この場はコミュニケーション、コンサルテーションの場として活用されています。あわせて、グラフィックや印刷に関する研修、アーティストなどを招いた展覧会、ワークショップやデモンストレーションなどが行われているようです。

 

「未来のユーザー=学生」向けの機能の充実

同施設がユニークなのは、学生向けのサービスを積極的に行っていることでしょう。グラフィック・アート関連学校の学生は水曜日と金曜日限定で、自由に見学が可能で(要学生証)、スタッフのアドバイス、ワークスペースへのアクセス、最大5枚までのサンプル提供というサービスや特典を受けることができます。その他の学校の学生に関しても、専門家によるショールームの機能説明や様々な紙のシリーズの紹介、関連する印刷技術、市場の最新動向の紹介など、ニーズに合わせたオーダーメイドの講座を提供できるとのことです。

BtoB企業が、BtoC企業のショールームに着想を得たような形で展開しているショールームの事例です。リアルな拠点を持ち、研修やイベント、コラボレーションなど顧客との関係強化を目的としています。顧客のほか、学生をターゲットにしているということから、より広い層との関係づくりをねらって設計された企業PR施設であると考えられます。

まとめ

企業がリアルな場や展示空間を活用して、人々とどのようにコミュニケーションするのか、PR=Public Relationsという文字通り、どのように人々との関係づくりを行うのかについて、3つの事例をご紹介しました。

最初に紹介したアボカ・エクスペリエンスは、来館者に展示に触れてもらい、アボカ社という企業の在り方を探ってもらう施設となっています。二つ目のノバルティス・パビリオンでは、見る人を引き込むようなストーリー、問いかけにより、来館者の中の医療に対する意識や「ノバルティス像」を大きくしていく仕組みがあります。最後のアンタリスのショールームは、コンサルテーションや研修・イベントを通じて、まさに顧客とのコミュニケ―ションを行う場です。

アンタリスのショールームを、「アクティブなショールーム」と紹介しましたが、その空間が「アクティブである」ということは今後空間づくりにとって重要な視点になってくるのではないかと考えます。世の中に情報があふれ、リアル・バーチャル含めメディアが多様化している現在、展示や空間を用意するだけでは顧客を引きつけることは難しいでしょう。リアルな場での企業PRを効果的に行っていくためには、その展示に人やその心を動かすような仕掛けがあるか、その空間はコミュニケーションが生まれるような活動が行われているか、ということを問う必要がありそうです。

レポート執筆者
丹青研究所

レポートを執筆した丹青研究所は、日本唯一の文化空間の専門シンクタンクです。
文化財の保存・活用に関わるコンサルや設計のリーディングカンパニーであるとともに、近年は文化観光について国内外の情報収集、研究を推進しています。
多様な視点から社会交流空間を読み解き、より多くの人々に愛され、求められる空間づくりのサポートをさせていただいております。

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