ブランディングの場として機能している企業ミュージアムの海外事例
Date: 2026.03.05
企業ブランディングを行ううえで有効な手段のひとつは、顧客・消費者・社会との直接の接点となる場所をもつこと。本レポートでは、企業ミュージアムなどの体験・見学施設を通して、自社のブランド価値や社会的イメージを高め、他との違いを生み出している海外事例を紹介します。
※このレポートは2025年11月に執筆されたものです。
※レポート内のリンクは執筆時に確認した外部Webサイトのリンク、画像はイメージ画像になります。
目次
ブランドの世界のすべてを体感できる、巨大な自動車ショールーム&ミュージアム
「ドイツ御三家」の魅力をあますところなく発信

ドイツの三大自動車メーカーの一角、BMW(1916創業)は、ミュンヘンの本社敷地内に大規模な見学・体験施設BMWヴェルト&BMWミュージアムを構えます。BMWヴェルトは2025年にリニューアルした大規模なショールーム(2007年開設)、BMWミュージアムは長い歴史をもつ企業ミュージアム(1973年開設、2008年リニューアル)。それぞれ建物は異なりますが、あわせて「BMWブランドの世界全体の体験」を掲げます。
両館の概要を見ておきましょう。近未来的な外観が印象的なBMWヴェルトは入場無料。先のリニューアルを経て、最新モデルの車両展示だけには留まらない演出やサービスを拡充しました。例えば、新たに整備した「BMW Mコンテンポラリー・クラブハウス」では、居心地のよいリビングルームとクールなガレージの雰囲気を融合させた空間で人気スポーツモデルである「Mシリーズ」を強調します。広い館内にはBMWブランドにまつわるトピックの展示やセルフィーコーナーも。公式の最新アプリを使えば、展示車両の3Dモデルやクイズ・宝探し、AIアバターによる施設案内なども楽しめます。
一方のBMWミュージアムでは、同社の過去と現在、未来を歴代モデルとともに紹介。「デザイン」「テクノロジー」「ブランド」など7つのテーマ別空間で構成される常設展示に加えて、さまざまなアーティストが手がけた「アート・カー」コレクションのギャラリーや企画展示を提供しています。BMWヴェルトとはスロープと橋で結ばれているため、車いすユーザーでも施設間の移動は容易です。
顧客と来館者のさらなる体験向上をめざして
レストラン・カフェやショップも当然ながら大充実。各種ワークショップ・イベントプログラムはもちろん、施設やグループ工場をめぐるガイドツアーに参加して、BMWの世界により深く間近で触れてみるのもよいでしょう。BMWヴェルトを中心に多様なイベントスペースを設けているのも特徴で、会議室やオーディトリウム、「ダブルコーン」(BMWヴェルトを象徴する空間)を貸し切り、同社や施設そのもののブランド力を活かしたビジネスイベントを開催することが可能です。
さらにBMWヴェルトには、この場所で車を受け取る顧客のためのパッケージプランがあります。これは上述のガイドツアーにプレミアムラウンジでの軽食やレストランでのディナーを組み合わせたもの。よりスペシャルな体験を求める向きには、完全プライベートな空間で納車を特別に演出する限定プランも用意しています。2025年のリニューアルでは顧客と来館者の体験向上をめざしたそうですが、この空間はそれに先立つ新サービスとして注目を集めました。実際の体験イメージはこちらの案内ページから見ることができます。
誰もが知るプレミアムブランドらしく、存在感のある広大な施設。新たな要素を取り入れて、ますます訪れたくなる場所をつくることは、顧客に選ばれるメーカーとなるうえでも必須なのかもしれません。
ブランディングにおける企業ミュージアムの有効性や、「リアル空間」だからできる企業ミュージアムを通じたブランディングについて解説します。

定番ブランドの味と品質、安全性を伝える「パックご飯」ミュージアム
自社研究キャンパス内の体験型施設

韓国中央部の地域、忠清北道(チュンチョンブクド)には、韓食ブランド「ビビゴ」で知られる総合食品メーカー、CJ第一製糖(1953年創業)の研究開発拠点CJブロッサム・キャンパスがあります。同国初・最大級のスマートファクトリーとされるこのキャンパスでは、広報館に設けられたヘッパンミュージアムをめぐる見学ツアーを提供しています。「ヘッパン」とは「パックご飯」という意味で、同社の主力製品の名称。パックご飯の代名詞になるほどの知名度を誇り、今や国民的日常食として定着したこの「ヘッパン」の味と品質、安全性を直接見て感じられるようにすることを目的として本施設は構想されました。
国民的日常食への歩みと最新技術をフィーチャー
まずは動画をご覧ください。最初に登場する「ヒストリーシアター」では、CJ第一製糖の歴史とブランドについて、またCJブロッサム・キャンパスについての案内映像をダイナミックに上映します。展示の中心となる「ヘッパンホール」は、お米を入れる升をモチーフに現代的な精米所を演出した空間。さまざまな資料やインタラクティブなコンテンツを通して、お米の歴史や食事作りの変化から「ヘッパン」が担ってきた食文化革命までを伝えます。もうひとつの見どころは、稼働中の工場が見渡せる通路に沿って整備された「ヘッパンスマートファクトリー」。こちらもエアシャワーなどの体験を交えながら、最先端の設備と「ヘッパン」がつくられる工程を紹介しています。
多種多様な製品パッケージで彩られた巨大なウォールが圧巻の空間は「テクノロジーホール」。世界に誇る最新技術をタッチパネルやタブレットで紹介しています。このCJブロッサム・キャンパスから生み出される数々のレトルト食品、その開発・製造の要となる技術力を前面に押しだそうという趣向です。
ツアーの最後には身近な食料品を扱う企業ならではコーナーが待っています。「ヘッパン」の自動販売機や従業員価格で買うことのできる商品が並び、それらを実際に使った食事の提供もあるようです。見学は事前申し込み制ですが、CJ第一製糖のブランドを文字どおり五感で味わえる施設となっています。
国民の食生活を支えてきた大手企業の取り組みと技術力を公開。自社研究キャンパスの中にあることからインナーブランディングの効果も期待できそうです。

真のブランドを目指す老舗毛織物メーカーによる「出会いの場」
美しきウールの世界に触れる旅
南仏の小さな村、リル=シュル=ラ=ソルグで代々続く毛織物メーカー、ブラン・ド・ヴィアン=ティラン(1808年創業)は2018年、ラ・フィラヴァンチュールという名前の美しいミュージアムを開設しました。工場に隣接する建物を転用したもので、施設名は「fil(糸)」+「aventure(冒険)」の造語。こちらの動画からもわかるように、牧歌的な雰囲気の中、広々とした前庭とインタラクティブな展示、そしてブランド初となる公式ショップが訪問者を迎え入れます。
展示は四エリアで構成。世界各地の高級ウールを探索する「羊毛市場」、毛糸の束で演出したスクリーンを通して経営者の想像の世界を分かち合う「モヘアシネマ」、職人たちによる解説映像で紡績から仕上げまでの工程を伝える「製造の迷宮」、提携する国立高等工業クリエイション学校(ENSCI)とともに未来のデザインを考える「イノベーション&デザインラボ」からなります。各段階の生地に触れ、本物の機械を操作できるコーナーも。子どもでも楽しめるように、羊のキャラクターによる冒険仕立ての無料冊子を受付で配布しています。
人々と出会うための場所として

ブラン・ド・ヴィアン=ティランは8代にわたる家族経営の企業。卓越したノウハウを評価する仏政府のラベル制度「無形文化財企業」の認定を得ています。百貨店などを主な対象として上質なウール製品を送り出してきた同社ですが、このような施設をオープンさせたのは、長い歴史をもつこのブランドを真のブランドとし、より広く知ってもらうには人々との「出会いの場」が必要だと考えたからだといいます。
何よりも重視しているのは、200年を超える毛織物製造の仕事とその技術、情熱を伝えること。この場所に訪問し、実際に見て、触り、耳を傾けてもらい、そして好きになってもらうことを目指しています。19世紀の建物である工場の常時公開はしていませんが、特別な発見ツアーに申し込めば、企業の歴史紹介をかねた村内散策と1時間半程度の工場見学にミュージアム見学を組み合わせたプログラムを通して、同社とその製品についてさらにじっくりと学ぶことができるようになっています。
歴史ある毛織物ブランドが人々と直接出会える場の創出に挑戦。製品の生まれ故郷に足を運び、知ってもらいたいという思いは、体験・見学施設の設置を検討するすべての企業に共通かもしれません。
まとめ
企業ミュージアムのような体験・見学施設では、自社の価値観やコンセプトを直接に、また魅力的な形で表現することができます。その企業ならではの展示や演出、サービスはもちろん、施設の存在そのものがブランドイメージの発信に貢献するのはいうまでもありません。
BMWのふたつの施設は、ミュンヘンのランドマークでもある人気スポットです。ドイツを含む各国の自動車メーカーが特色あるショールームやミュージアムを構える中、多岐にわたるブランド体験を提供し、観光客や地域住民、ビジネスイベントの主催者・参加者、そして大切な顧客が訪れたくなる場所づくりを追及しています。一方、韓国食品のグローバル展開を進めるCJ第一製糖は、国民に親しまれているパックご飯を主役に据えました。「ヘッパン」がもたらした食文化革命や、良質な製品を食卓に届ける最先端の技術を見せることで、身近な企業とそのブランドのすごさを実感させる内容となっています。消費者や社会との接点としての企業ミュージアムの役割を考えるうえで象徴的なのはブラン・ド・ヴィアン=ティランの事例でしょう。小規模ながらも温かみのある施設を開設し、広く一般の人々に来てもらうことで、同社の毛織物のブランド価値を改めて伝えようとしています。
今回取り上げた三社は既に一定のブランド力をもつ企業といえますが、その企業にしかない価値を社内外に対して共有し、よりよいブランドイメージを形成・確立していくためには、アプローチしたい層との接点となりうる場が欠かせないようです。事業の領域や規模に関わらず、自社の活動や、さまざまな製品とそれがつくられる現場を間近で体験・見学できる施設があることは、企業ブランディングの助けとなるでしょう。
ウェビナーアーカイブ動画
企業ミュージアム(クロステックミュージアム、いすゞプラザ、ロマンスカーミュージアム)運営企業各社をお招きし、「つくって運営したから分かったことや気づき」についてお話いただきました。

レポート執筆者
丹青研究所
レポートを執筆した丹青研究所は、日本唯一の文化空間の専門シンクタンクです。
文化財の保存・活用に関わるコンサルや設計のリーディングカンパニーであるとともに、近年は文化観光について国内外の情報収集、研究を推進しています。
多様な視点から社会交流空間を読み解き、より多くの人々に愛され、求められる空間づくりのサポートをさせていただいております。
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