コラム

企業ミュージアムとは?海外事例3選をご紹介

近年、企業が自社のブランドや製品、技術を広く知ってもらうことや企業の歴史的価値の保存などを目的として企業ミュージアムを設立する企業が増えています。
本コラムでは企業ミュージアムとは何か、企業ミュージアムの海外事例として、「ミュゼ・アトリエ・オーデマ・ピゲ」「シテ・デュ・ショコラ」「ハーレー・ダビッドソン博物館」の3社の事例をご紹介いたします。

※このレポートは2021年8月に執筆したものです。
※レポート内のリンクにつきましては執筆時に確認した外部Webサイトのリンクになります。

企業ミュージアムとは?

企業ミュージアムとは、企業が自社のブランドを広く認知してもらうことや企業の歴史的価値の保存などを目的として作られる博物館・美術館の要素を持つ施設の事を指します。
企業ミュージアムの設立の目的は様々で、近年では社内教育や研修の場としての利用なども多く見られ、インナーブランディングを目的としてつくられるケースなどもあります。
日本は長い歴史を持つ企業が多いことから世界的にみても企業ミュージアムの数は多くなっています。

企業ミュージアムの海外事例「ミュゼ・アトリエ・オーデマ・ピゲ」

 

高級腕時計製作のすべてを伝える、生きた美術館

ミュゼ・アトリエ・オーデマ・ピゲは世界三大時計ブランドの1つ、オーデマ・ピゲの企業ミュージアムです。2020年6月、スイス西部のジュー渓谷にオープンしました。時計のムーブメントを思わせる渦巻状の平面を持つガラス張りの施設で、工房、約300点の時計を紹介する常設展示スペース、企画展用スペースなどで構成されます。

ジュー渓谷は創業の地となっており、自然豊かな環境で、刻々と変化する景観がブランドの時計作りにインスピレーションを与え続けてきたと言われています。施設はブランドの最も古い歴史的な工房もミュージアムに隣接して建ち、来館者は入館前から、創業当時より変わらない素朴な山里の雰囲気が体感できます。

展示は、ブランドが持つ技術と歴史が体感できる構成となっています。建築の渦巻きの中心には複雑機構(機械式時計が正確に時を刻むための機構)を数多く搭載した傑作と謳われるユニヴェルセルを展示しています。それを取り囲むようにブランドを代表する時計が輝く地球儀のような什器に収められ、時計が織りなす銀河のような空間を形成しています。渦巻きの外縁部には一流職人の手仕事を間近で見せる工房が配置されています。ブランドが販売する高級時計の中でも、卓抜した技術が必要とされるコレクションが実際に作られています。

見学は事前予約制で、通常ガイドツアーと、時計職人体験付ガイドツアーの2つの選択肢があります。特に後者の「歴史の暗号を紐解くマスタークラス」は人気です。専門家の指導のもと、時計の駆動を司る内部機構であるムーブメントを組み立てるコースで、組み立てた時計は記念に持ち帰ることができます。予約可能な3か月先まで既に完売しています (2021年7月現在)。対応言語はフランス語、ドイツ語、英語。全4時間半のコースで、1人390スイスフラン(約4万6,800円)。今後より詳細なテーマ別クラスも設けられる予定のようです。

世界には時計に関するミュージアムが多々あるが、生きた職人技を体感できる施設はあまりありません。ミュゼ・アトリエ・オーデマ・ピゲが提供する非日常的な楽しい体験は、ピゲのオーナーはもちろんそのファミリーやこれまでに関心がなかった人々にも訴求する美しさや楽しさに満ちています。ブランドの魅力をより広く伝え、より奥へファンを誘う場所になっています。

企業ミュージアムの海外事例「シテ・デュ・ショコラ」

 

プロも注目する BtoB 企業によるチョコレートミュージアム

2013年にフランス南東部にオープンしたシテ・デュ・ショコラは業務用チョコレートメーカー、ヴァローナの企業ミュージアムです。五感を使ってチョコレートについて学べる施設で、ファミリー向け要素が強いですが、チョコレートのプロ・ショコラティエからも評判が高いです。2019年の来館者数は14万1,800人となります。チョコレート関連の観光スポットとしては欧州トップの人気を誇り、売り上げは企業の営業収益の約3%を占めます。

一般来訪者向けには、カカオの栽培方法などを紹介するカカオ農園の再現空間、各所に試食を用意したチョコレートの製造工程紹介展示など、五感を使うインタラクティブな見学コースが設けられています(現在、感染対策のため試食はお土産に変化)。企業の顧客であるショコラティエたちのインタビューを聞くコーナーもあり、カカオからチョコレートのお菓子ができるまでの一部始終を知ることができます。ワークショップもあり、解説付きの試食や利きチョコレートのクラスなど多様なプログラムを追加料金1ユーロ(約130円)で提供しています。

専門能力を保証されたパティシエから直接学べる、高レベルなお菓子作り教室も提供しています。企業が運営するショコラ専門技術校と同様のお菓子作りを伝授するもので、業界関係者からの注目度も高いです。熟練度に応じた幅広いプログラムが用意され、所要時間は30分~2日間、価格は9~345ユーロ(約1,170~44,850円)となっております。

2020年はコロナ禍を受け長期間休館しましたが、その間試食キット付きのバーチャル見学を開催して話題となりました。内容は、オンラインで通常の見学コースをたどりながら、試食キットの各製造段階のチョコレートの食べ比べができ、質問するとスタッフが直接答えてくれるというものです。所要時間は約1時間30分で、料金は21.60ユーロ(約2,808円)となります。2名分の試食キットと施設再開後の入場チケットが料金に含まれます。

チョコレートの奥深さを様々な手法で伝えることで、来館者のチョコレートへの見方を変える施設となっています。これはチョコレートがもたらす美食の世界のさらなる発展につながり、ヴァローナだけでなく広くチョコレートに関わる人にとっても大きな意味を持つことになるでしょう。

企業ミュージアムの海外事例「ハーレー・ダビッドソン博物館」

 

世界中からファンが集う「バイカー文化」を伝える殿堂

ハーレー・ダビッドソン博物館は、アメリカのオートバイブランドであるハーレー・ダビッドソンの企業ミュージアムです。革のライダースジャケットにデニムを合わせるファッションなど、アメリカの「バイカー文化」を築いたブランドであり、世界中に熱狂的なファンが存在します。

施設は2008年にオープンしました。創業の地であるアメリカ北東部の都市ミルウォーキーの工業地帯にあります。20エーカー(約80,900㎡)の川沿いの敷地は芝生で覆われ、公園のような雰囲気があります。敷地内には、常設展示用建物、企画展示スペースがある収蔵庫、レストランショップイベントスペースの主に3つの建物があります。毎日試乗会を開催するなどイベントにも力を入れており、年間35万人以上が訪れています。

常設展示用の建物は、延床面積60,000平方フィート(約5,600㎡)。オートバイの分解展示、創業時のオートバイやカスタムの展示、モータースポーツ紹介などから構成されます。ファミリー向けの部屋も充実しており、子ども用ライダースジャケットを着て歴史的オートバイを模したおもちゃに乗れる部屋や、リアルなバイクに触って乗れる体験ルームなどがあります。小さな子どもにも「バイカー文化」を伝え、次世代のファンを育んでいます。

イベントスペースも人気があります。特にブランドのファンの間では結婚披露宴会場として定着しています。婚礼衣装で自慢のオートバイに乗り、ブランドの名前が描かれた壁の前で記念撮影することは、ハーレーファンのカップルの憧れです。実際に披露宴を行ったカップルは「ここはオートバイ天国。我々は天国で結婚したのだ」と語ります。需要の高まりを受け、現在8,200㎡の新たな会場を建設中です。2022年春に竣工予定となっています。

まとめ

今回ご紹介した3つの人気企業ミュージアムは、ガイドツアーやイベントを開催するなど、多様な働きかけを精力的に継続しています。これは企業のメッセージを効果的に伝え、ファンを増やすだけではなく、企業ミュージアムが来館者を含む企業のステークホルダーとの対話の場、親密な関係を築くきっかけを創出しています。より深く企業が愛され続けるための機能を果たしているのではないのでしょうか。

レポート執筆者
丹青研究所

レポートを執筆した丹青研究所は、日本唯一の文化空間の専門シンクタンクです。
文化財の保存・活用に関わるコンサルや設計のリーディングカンパニーであるとともに、近年は文化観光について国内外の情報収集、研究を推進しています。
多様な視点から社会交流空間を読み解き、より多くの人々に愛され、求められる空間づくりのサポートをさせていただいております。

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