コラム

ARを活用した新たな展示手法〜博物館での導入事例をご紹介

拡張現実「AR」の技術は、博物館や美術館における展示にも取り入れられるようになってきています。ARは空間展示と相性が良いと言われており、これまでの展示を進化させることが期待されています。今回は、ARと空間展示の相性が良い理由と共に、実際の導入事例をご紹介します。

ARとは?

ARとは「Augmented Reality(アグメンティッド・リアリティ)」の略で、日本語では「拡張現実」と訳されます。

現実世界にデジタル情報を重ね合わせて表示する技術のことで、スマートフォンやARグラスと呼ばれる専用のグラスを通すことで、現実の風景や物体にデジタルの情報を付加して表示することができます。

すでにエンターテインメントや小売などの業界で取り入れられています。家具の小売の分野で実施されているケースでは、自宅のリビングにスマートフォンをかざしてカメラ越しに見ることで、デジタルグラフィックのソファなどの家具が実際にリビングに配置されているかのように見ることができます。これにより、購入前に家具を置いたイメージをつかむことができるため、購入前の判断に役立ちます。

ARと似たものに、VRつまり「Virtual Reality(バーチャル・リアリティ)」と呼ばれる技術がありますが、VRはすべてが仮想で作られた現実世界を表します。ARが実際の現実世界に仮想コンテンツを重ね合わせて現実世界を拡張するのに対して、VRは完全に仮想世界で完結する点に違いがあります。

ARを活用した展示が増えてきた背景

ARを活用した展示施設、イベント、展示会が増えてきた背景には以下のような要素があります。

1.AR技術の進歩
近年のスマートフォンの技術進化により、AR技術が手軽に利用できるようになりました。またAR技術自体も日々進化しており、よりリアルな映像を提供できるようになってきていることから展示への活用が広まっています。

2.デジタルシフトの加速
新型コロナウイルスをきっかけに、リモートでも楽しむことができるAR展示が注目を浴びるようになりました。

3.ユーザー体験の向上
従来の展示では実現できなかったインタラクティブな体験を行うことができます。視覚的な楽しさだけでなく、参加型の展示を実現することができます。

4.コスト削減
AR展示を導入することにより、展示物を設置するためのスペースの削減、展示物を維持・管理するための人件費の削減ができます。

AR技術が博物館などの空間展示と相性が良い理由

AR技術は、博物館などの空間展示に導入されるようになってきており、新しい展示体験が提供されています。AR技術が空間展示と相性が良いとされている主な理由は次の6つが考えられます。

1.スペースの制限を受けにくい
AR展示では、スマートフォンを展示物にかざすと、現実にない展示物が画面上に現れ、新たなコンテンツを見ることができたり、映像を視聴できたりします。ARで拡張されるのは仮想のコンテンツであるため、物理的なスペースやリソースの制限に影響されずに、大規模な展示や、実際には存在しない、または物理的にアクセスできない展示を制作することができます。

2.展示のカスタマイズが可能
ARを用いれば、ユーザーの興味やトレンドに合わせて展示をカスタマイズすることができます。ユーザーの興味関心に応じて、表示するコンテンツを出し分けることができるため、よりユーザーに寄り添う展示が可能になります。

3.教育的な価値提供の向上を実現
展示はこれまで知らなかった世界を知るのに有効であり、子どもから大人まで有意義な学習コンテンツを提供します。AR展示は特に、視覚的な学習を強化することができる上に、複雑な概念や情報を理解してもらいやすくなります。

4.更新性の向上を実現
AR技術を使用すると、展示情報をリアルタイムで更新し、最新の情報を提供することができます。

従来より季節ごとに展示を変化させる試みは行われていますが、更新の手間や期間を要します。ARであればデジタルコンテンツを差し替えるのみで済むため、展示の入れ替えや変更も容易かつリアルタイムに行えます。頻繁に更新する必要がある場合などは特に有用といえます。

5.多言語対応が可能
ARを用いて展示の説明を行う場合、ユーザーのスマートフォンなどのデバイスで言語を選択できるようにすることで、多言語化も可能になります。

6.施設の工事不要で導入可能
新しい技術を用いた展示の仕組みを導入するといった場合、工事が必要になることもありますが、ARコンテンツは工事不要で導入が可能です。

AR展示の導入事例

実際に、ARを用いた展示事例をご紹介します。

製造に利用する水処理装置などの製造・開発を行うある企業は、会社ヒストリーや技術、社会との関わりをテーマに展示を行う企業ミュージアムを展開しています。

施設設立の目的は、多種多様なステークホルダーとの交流や協働を通じてイノベーションを創出することにあります。既存のビジネスパートナーからまだ同グループのことを知らない新しい顧客まで、さまざまな来館者を想定し、複数の切り口を用意したり、情報にグラデーションを持たせたりすることで理解促進に努めました。

その展示の一つが、「水の価値」をテーマとした、水が社会の中でどのように循環するのかを表現するジオラマとARを組み合わせた展示です。

テキストをじっくり読まなくても、ホワイト模型やジオラマにタブレット端末をかざすことで、同グループの技術がどのように適用され、社会や産業に関わっているのかが直感的にわかるようになっています。

専門的な領域である水処理を知らない人にもわかりやすい内容の展示となりました。

来館者はジオラマAR展示に見入り、子どもから大人まで多くの人々の興味関心を集めました。

栗田工業株式会社様「Kurita Innovation Hub」事例資料
https://web.tanseisha.co.jp/public/application/add/6401

まとめ

AR展示は、従来の展示を変える大きな可能性を秘めている展示手法として、今後もさらに進化し、活用されていくことでしょう。

丹青社では、今回ご紹介した事例の他にも、展示空間におけるARやVR、MR(Mixed Reality/複合現実)といったxR技術を活用した取り組みを行っています。

ご興味のある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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