コラム

社内コミュニケーションがもたらす効果-成功事例のご紹介

コロナ禍でリモート勤務が一般的になった一方で、社内コミュニケーションに課題を感じる企業も多くなりました。「同僚といつでもオフィスで話せる」という前提がなくなったことは、個人のメンタルのあり様やモチベーションの低下のみならず、チーム力にも影響が出ることが懸念されています。そのような中、「コミュニケーションをとりたくなる」仕組みを新たに考えている担当者も多いのではないでしょうか。今回はヨーロッパの大企業から中小企業までの社内コミュニケーション事例を紹介します。


※このレポートは2022年7月に執筆されたものです。
※レポート内のリンクは執筆時に確認した外部Webサイトのリンク、画像はイメージ画像になります。

社内コミュニケーションの課題

HR総研が2022年度に実施した社内コミュニケーションに関するアンケート調査では、9割以上が「社員間のコミュニケーションの不足は業務の障害になる」と回答し、働く多くの人々が社内コミュニケーションを重要視しているのが分かります。
しかしながら、回答した方の7割以上が「自社の社内コミュニケーションに課題あり」と回答し、社内のコミュニケーションに課題を感じている方は多くいると思われます。

引用:HR総研 社内コミュニケーションに関するアンケート2022 結果報告1 <https://www.hrpro.co.jp/research_detail.php?r_no=328>

社内コミュニケーションの課題として具体的には以下が挙げられます。

・リモートワーク化により気軽にコミュニケーションが取れなくなった
・経営層と社員とのコミュニケーションがうまく取れない
・部署ごとに建物が分かれており、連携が取りづらい

次章では社内コミュニケーションの課題を解決するための方法をご紹介いたします。

社内コミュニケーションを活性化させる施策とは

社内コミュニケーションを生む効果的な施策を紹介します。

1.社内イベントパーティー
納会や忘年会、社員旅行など定番となるイベントのほか、周年イベントや社員研修会など業務に関わるイベントを行うことで社員同士のコミュニケーションが生まれるきっかけとなります。

【関連コラム】周年事業とは?ブランディングに効果的な理由や事例をご紹介

2.社員食堂
食事をとりながら気軽に会話ができる場として有効です。
業務中にはできない気軽な会話などを行うことができます。

3.社内SNSの活用
社内SNSは運用者からの情報発信のみならず、雑談のきっかけとなる話題を投稿することで社員同士のコミュニケーションが生まれます。

社内コミュニケーションの成功事例レポート

ここでは社内コミュニケーションの成功事例を3つご紹介します。

聴くメディアの可能性。
社内ラジオの「ながらコミュニケーション」が上げる力

開始から2年以内に社員の半数が出演

フランスの保険会社のロールはコロナ禍初期の2020年5月に社内ラジオ局を立ち上げました。従業員が仕事内容や従業員の生活など、いわゆる“社内報”のような内容を肉声で届けています。

たとえば、財務担当者に決算のプロセスを説明してもらったり、IT担当者に良いパスワードの選び方を聞いたり。時には経営陣自らが話します。当初はコロナで通勤ができない期間だけの取り組みと考えていましたが、社内からの強い要望もあって現在も続いています。

社員への負担が少ない“ラジオ”というメディア

ロールの人事顧客部長のセルバン・プティ氏は人事課題解決のための情報プラットフォーム、FocusRHへのインタビューに「成功のカギはラジオが従業員のものになったこと」と答えています。ラジオ開始から2年あまりですが、これまでに社員の半数である260人以上が出演しました。

ラジオは発信者にもリスナーにも仕事の傍ら、取り組みやすいメディアといえます。リスナーは聴覚だけを使うので、何かをしながら聞くこともでき、また、パソコンを長時間使うことで目が疲れ気味な現代人にも受け入れやすいものとなっています。また、発信者にとっても社内報などの書く媒体では執筆や編集など多くの時間が必要になる一方、ラジオであれば話すだけで済むという利点もあります。

社内コミュニケーションはロール社の競争力の源

きっかけはコロナ禍での在宅勤務となります。もともと社員同士の距離が近いことを自負してきた同社でしたが、職場で顔を会わせることが減ってくると、社員同士の関係に変化を感じるようになったといいます。そこでラジオやポットキャストの制作を手掛けるスタートアップ企業等の協力を経て、着想からわずか2週間後に社内ラジオをスタートさせました。

フランスのキャリアサービス会社、チューズ・マイ・カンパニー社による会社評価ランキングによると、ロールの評価は2019年では5点中4.55点でしたが、2022年は4.6点を獲得、推薦率については、2019年の90.8%に対し、92%となっています。

また、全社員に毎月行っているアンケートで社員の充実度を測定したところ、直近2年間は10点満点中8~9点のあいだを推移しており、社員のモチベーション、会社に対する気持ちの強化に貢献しているようです。

最近、ラジオやポッドキャストなどの「耳」の占有の可能性について、あらためて話題になっています。働く場の多様性に伴うものと思われますが、コミュニケーションの手法としても使うことができるというのは面白いです。「頭」も持って行かれるウェビナーとは一味違う気軽さもよいのではないでしょうか。

マッキンゼー子会社の東欧のデジタル戦略拠点
顧客も訪れたくなるオフィスづくりで業績アップ

顧客とのコミュニケーションはビジネス成功のカギ

デジタルコンサルティングからデジタル製品開発まで手掛けるハンガリーのインセプテックは、2020年首都ブダペストにソフトウェア・エンジニアリング・スタジオをオープンしました。ヨーロッパ中から一流のエンジニアやデジタルコンサルタントを採用することで、さらに成長・拡大することを目指しています。

スタジオは従業員が快適に仕事できるようにするだけではなく、顧客にとっても訪れやすい、訪れたくなる空間になるように設計されました。

インセプテックによると、今回のスタジオ開設によって顧客が増加しました。従来は書面中心であった顧客とのコミュニケーションが、今ではクライアントがオフィスに来て、彼らのニーズについて話し合い、すぐに問題解決に取り掛かれるようになりました。

ドナウ川のほとり、ビジネス街至近の居心地のよいオフィスに集う

新スタジオはビジネスエリアから徒歩圏内の流行エリアにつくり、顧客が気軽に訪れられるようにしました。また、ドナウ川のほとりに位置する美しい景観を活かすため、スタジオには豊富な自然光が入る大きな窓を取りつけました。室内には至る所に植物を配置し、家具は白あるいは明るい色に、部屋の仕切りは透明なものにして、開放的な印象を与えようと計算されています。

スタッフが集まって音楽セッションを楽しむことができるような設備も整えられ、ヨガをはじめとするアクティビティも楽しめます。

東欧最大のマッキンゼーのデジタルスタジオに

インセプテックは2022年にコンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニーに買収され、ヨーロッパで4番目、東欧では最大のマッキンゼー・デジタルスタジオになりました。そもそも創設者がマッキンゼーOBであり、ビジネスのあり方としての親和性は高かったのではと推察されますが、マッキンゼーのデジタル戦略の東欧の拠点として重視されているようです。マッキンゼーのクライアントがデジタル製品、チャネル、およびビジネスを構築するのを支援します。

デジタル業界では厳しいスケジュールの中でも、質の良い提案と製品づくりが求められており、高いクオリティのサービスを提供し続けることと顧客と従業員双方のコミュニケーションを円滑に維持することは、ともに重要なミッションです。そのためにオフィスを戦略的に使いこなす事例は今後も増えていきそうです。

個人のスキルがものをいうデジタル産業ですが、「人」を重視するマッキンゼーらしさを感じさせるオフィスです。「人」のパワーをどのように拡大するかがやはりビジネスの根幹であることを思い出させる事例ではないでしょうか。

社員の思いから生まれた新オフィスの構想。
会話が生まれるオフィスは社員がつくる

構想期間は3年、従業員約1,000人にヒアリング

フランスの食品大手ダノンは2021年1月に同社の同グループ世界最大となる全7階建てのオフィスをリニューアルしました。乳製品部、飲料水部、特別栄養食部、人事部、情報技術部がすべて1つの社屋内に収まることで、約1,700人の従業員の横断的で円滑なコミュニケーションを目指しています。特筆すべきはリニューアルが実現するまでの過程にあります。

社員から約50人がアンバサダーとして選ばれ、構想からお披露目までのプロジェクトの全過程に参加。構想期間は3年と長く、その間ダノン社員約1,000人からの要望も直接聞いていったといいます。一般的に、社屋のリニューアルは経営陣と外部の設計担当者が進めることが多く、現場の声をここまで大規模に取り入れられるような体制がとられることはあまりないのではないでしょうか。

社内コミュニケーションの要となる会議室や飲食・休憩スペースにおいて、当事者である従業員が使いやすく、また使いたくなるような設計にしなければ効果が生まれにくいため、ダノンのようなやり方は今後多くの会社に参考になればと思います。

社内レストランは4店舗、地産地消がテーマ

新社屋では、会議室は利用状況にあわせて形を変更できる仕様にし、カフェテリアは全4店舗を用意しています。カフェテリアはダノンのビジョン「One Planet. One Health(人々の健康と地球の健康は相互につながっている)」を従業員が体現できるようにするため、「地産地消、責任ある消費」をテーマにした料理を提供。運営はソジェレス社に任せ、規格外の食材やフランス産の食材、季節の食材などを積極的に使っています。

社員の思いがベースにあり、さらに企業のビジョンを体感できる場としてのオフィス。そこから生まれるプロダクトはどういったものでしょうか。企業への期待感につながる話題です。

オフィスづくりにかかるコストと時間をよりクリエイティブなものとする発想は、大きな戦略につながるのではないでしょうか。

企業ミュージアムで社内コミュニケーションを活性化

社内のコミュニケーションを活性化させる施設として「企業ミュージアム」が注目を浴びています。
企業ミュージアムとは、企業の歴史や製品、史料などを展示したり、事業やサービスについての理解が深まるための仕掛けが施された施設のことです。
従来は製品や技術の紹介といった社外の人のみをターゲットとして、運営を行っていた施設が多く見られましたが、近年は社内研修やイベント行事など社内コミュニケーションを活性化させる取り組みとしての利用も見られるようになりました。

丹青社による企業ミュージアムの制作事例はこちら

まとめ

社員・スタッフのコミュニケーションを促進するために、様々な取り組みが展開されています。リアルでのアクティビティや、昨今は特にバーチャル上でのゲーム性が高いプログラムの活用も多く見られるようです。今回は、持続的・発展的に社内コミュニケーションを促進するためにはどういった手法が有効かという面からアプローチしてみました。

最初に紹介した社内ラジオは、顔ではなく声で社員の個性やアイディア、思いなどを伝えたり、つながりを生み出したりできる、働く場の多様化と親和性が高い手法となるでしょう。オフィスについては、コミュニケーションを促進させるための装置としてオフィスあり方を考えるということ、「オフィスをつくる/働く環境をつくる」ことをプロジェクト化し、コミュニケーションの機会とすることなど(成果であるオフィスは社員・スタッフの声が反映されており、モチベーションにもつながる)、長く効果が続く社内コミュニケーションの展開のヒントを見つけられたように感じます。

社内コミュニケーションは、今後、ますますマンパワー拡大の重要な戦略になっていくだろうし、その手法も企業のねらいに応じて多様化していくと予想されます。デジタル戦略と表裏一体として考えていくべきテーマであると思います。

レポート執筆者
丹青研究所

レポートを執筆した丹青研究所は、日本唯一の文化空間の専門シンクタンクです。
文化財の保存・活用に関わるコンサルや設計のリーディングカンパニーであるとともに、近年は文化観光について国内外の情報収集、研究を推進しています。
多様な視点から社会交流空間を読み解き、より多くの人々に愛され、求められる空間づくりのサポートをさせていただいております。

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