コラム

企業ミュージアムにおけるデジタル技術の活用事例|海外の展示例をご紹介

日々進化を遂げるデジタル技術は、企業ミュージアムにおいても重要な役割を果たし、様々な目的で活用されています。ここでは、海外の企業ミュージアムでデジタル技術を活用した展示を提供し、来館者を惹きつけている事例を紹介します。


※このレポートは2024年7月に執筆されたものです。
※レポート内のリンクは執筆時に確認した外部Webサイトのリンク、画像はイメージ画像になります。


体験型展示とエンターテイメント性のあるアトラクションで来館者に訴求

ポルシェファンにはたまらない展示が盛りだくさん

ドイツ第6の都市、シュトゥットガルトにある「ポルシェ・ミュージアム」は、ドイツの自動車メーカー、ポルシェ本社の敷地内に建つ企業ミュージアムです。約5,600㎡のスペースに、80台あまりのミュージアムカーをはじめ約200点の貴重なコレクションが展示されているほか、随時更新される趣向を凝らした展示により、ポルシェ社の魅力を紹介しています。

デジタル技術の活用の一つとして、館内ガイドには「マルチメディアガイド」を採用。これは、常設展におけるすべての展示品のビジュアルデータを、無料で貸し出されるスマートフォン型マルチメディアガイド端末で見ることができるシステムです。ポルシェの由来や自動車産業におけるポルシェの知識を紹介する約5,000枚の写真や約700本の動画が保存されており、従来のオーディオガイド以上の情報が得られます。ガイドはドイツ語、英語、フランス語、スペイン語、イタリア語、ロシア語、日本語、中国語に対応しており、キッズバージョンも用意されています。

車の魅力を五感で楽しめるユニークなプログラム

館内の特徴的なプログラムの一つが、インタラクティブな音響インスタレーション「ポルシェ・イン・ザ・ミックス」です。これは、車にまつわる音を組み合わせることで、オリジナルの楽曲制作ができるというユニークなもの。 まず、来館者はパネルを操作してそれぞれ独自のサウンドを持つ7種の車両モデルから好きなモデルを選択。ここで選んだサウンドがベースとなります。続いて、8つの追加サウンド(ウィンカー音、ドアを閉める音、エンジン音など)をオン/オフし、最初に選択したサウンドに「トラック」として組み込んでいきます。こうして、ポルシェの音だけで構成された自分だけのオリジナル音源のできあがり。この音源はEメールで送信可能というのも嬉しいポイントです。

また、本ミュージアムの最大の見どころにもなっているのが、常設展示の最終地点に設置されている、高さ12mの「ポルシェ・タッチウォール」です。タッチウォールに近づくと新しい画面が開き、90年に及ぶ自動車産業とポルシェの歴史をバーチャルにタイムトラベルできるようになっています。さらに、1931年から現在までの写真、設計図、ポスター、広告など合計3,000点以上の資料が検索可能というのもファンにはたまりません。これらの情報は、館内の資料室のデータベースと連動しており、新しいコンテンツが毎日自動的にインポートされ表示できるようになっています。

最先端の技術を駆使し、ディープなマニアからライトなファンまで楽しめるプログラムが満載。「ミュージアムへの訪問は二度として同じであってはならない」という信念のもと、常設展示を継続的に更新するなど、リピーターの集客に力を入れている点にも注目したい。

AR技術と模型を組み合わせた、デジタル×アナログがもたらす展示解説の革新

世界を牽引する半導体メーカーの歴史と製品の裏側を知ることができるミュージアム

インテル・ミュージアム」は、カリフォルニア州の世界的な半導体メーカー、インテルの本社内にあるミュージアムです。パソコンの黎明期を支え、今もなお技術革新を続けるインテル製品や、創業から世界トップになるまでの企業の歴史、日々進化を遂げる半導体技術に関する展示があり、1992年のオープン以来多くの来場者を集めてきました。

最新技術により一般公開の難しい施設の工場見学ツアーが実現

本ミュージアムには、2024年に新たにインスタレーション「インテル・XR・ファブツアー」が導入されました。内容は、一般公開されていない最先端のチップ製造施設(ファブ=Fab)でどのようにシリコンチップが製造されているのかを説明するもの。AR技術によって真っ白な工場模型に8つのアニメーションを投影し、製造工程や設備、システムを解説します。仕組みとしては、模型のそばに設置されたディスプレイに付属するカメラが工場模型を映し、画面上でAR技術を使って、模型の上にアニメーションを投影し工場内部を案内。来館者はディスプレイを左右に動かしながら、工場各所の内部を自由に見学できるようになっています。このコンテンツの制作に関わった会社が、こちらのサイトで内容を分かりやすく紹介しています。

展示は、上記の一般向けのセルフガイドツアーのほか、VIPゲスト向けのXR体験があり、VIP向けのものはマイクロソフトが開発したコードレスの複合現実ヘッドセット、ホロレンズ2を使った臨場感あふれる体験が楽しめます。

デジタルとアナログを組み合わせた斬新な仕組みにより、新しい工場見学のスタイルが誕生。一般の工場見学ツアーと異なり、各々が見たいところを自由に散策しながら見て回れるのも魅力だ。

自分がビールに!?なりきって学べる没入型映像展示

世界中で愛されるビールの魅力を伝えるユニークな博物館

オランダ・アムステルダムのビールメーカー、ハイネケンが手がける企業ミュージアム「ハイネケン・エクスペリエンス」は、ハイネケンが初めて開設した醸造所跡地につくられた体験型ミュージアムです。館内には、ハイネケンの歴史、醸造過程、 技術革新、スポンサーシップ、およびハイネケンビールの注ぎ方のこだわりなどについて学べる見学ツアーが用意されています。

アトラクションのようなまったく新しい工場見学

なかでも人気なのは、2018年にスタートした没入型アート展示「ブリュー・ユー・ライド(Brew You Ride)」。工場内を外から見てまわる従来の見学ツアーとは異なり、来館者自身がビールとして醸造され、消費者のもとに届くまでの工程を体感できるという没入型映像展示です。展示エリアは5つに分かれており、エリア内を歩いて移動しながら、音と映像を通してハイネケンの複雑な醸造プロセスを1ステップずつ体験します。最後にはもちろんハイネケンビールの試飲タイムも。

この展示は、インテリアマガジン『フレーム(FRAME)』が主催する、国際的な空間デザイン賞「フレーム・アワード」の2019年のロングリストにも選出されました。

ビールの目線で製造工程を学ぶという斬新なアイデア。最先端の音響システムやプロジェクションマッピングを用いた遊び心のあるプログラムで、国内外から多くの来場者を集めている。

まとめ

今回は、デジタル技術を活用した展示を行う海外の企業ミュージアムを紹介しました。「デジタル技術」と一口に言っても、その種類や使い方はさまざまであることがお分かりいただけたかと思います。

ポルシェは、デジタル活用のメリットの一つである情報更新の便利さを上手く利用することで、常に新しい展示を用意することを叶えました。さらにインタラクティブな展示を組み合わせることで、自社の深い歴史と豊富な製品をより魅力的かつ印象的に発信しています。インテルはAR技術、ハイネケンは没入型映像と、それぞれ異なる手法によって、実際に工場に足を運ばずともミュージアム内で工場見学ができるようにしました。どちらの事例も、オンサイトでの見学では見ることができない部分まで再現して公開している点は、デジタルならではの強みでしょう。

展示を通して企業と顧客をつなぐ企業ミュージアム。そこにデジタル技術を導入することによって、来館者の五感を楽しませながら、企業のこれまでの足跡を辿るような没入感を生み出すなど、製品に対する企業の熱意や愛情をありありと伝えることができるのではないでしょうか。自社の魅力あふれるストーリーを発信する方法として、デジタル展示は有効です。効果を最大限に発揮させるには、「何をどのように伝えたいか」といった目的に応じて、適切にデジタル技術を選択して展示に取り入れることが重要になるでしょう。

レポート執筆者
丹青研究所

レポートを執筆した丹青研究所は、日本唯一の文化空間の専門シンクタンクです。
文化財の保存・活用に関わるコンサルや設計のリーディングカンパニーであるとともに、近年は文化観光について国内外の情報収集、研究を推進しています。
多様な視点から社会交流空間を読み解き、より多くの人々に愛され、求められる空間づくりのサポートをさせていただいております。

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